自閉症

 

家族ら「虐待と疑われ」記者の目に反響(毎日新聞 2004.5.12)
 
自閉症アスペルガー症候群など発達障害の早期検診や支援態勢の整備などを盛り込んだ発達障害支援法案(仮称)が議員立法で今国会に提出される見通しとなった。偏見や誤解が根強く、社会生活が困難なケースは多いが、これまで自閉症などは福祉の対象として法的な規定はなかった。
発達障害支援法案は、自閉症などの障害者への支援を国や自治体の責務とし
  (1)乳幼児検診や就学時検診での早期発見、相談や療育を提供する体制の整備
  (2)警察や司法関係者の理解の促進
  (3)障害の特性に応じた就労の確保
  (4)地域での自立生活を希望する者へのグループホームの整備−−などを盛り込む。


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石破茂防衛庁長官の「自閉隊」発言をきっかけに、自閉症児の父親の立場で正しい理解を訴えた本紙「記者の目」(4月21日付)には、読者から約150通の反響が寄せられている。「新聞を読んで初めて泣きそうになった」など、家族からの分厚い手紙が多い。ようやく法的に認知される自閉症の現状について読者の声を通して紹介する。【神戸金史】

福岡市の梶原千代美さん(38)の長女は4年前、2歳6カ月で自宅を抜け出し、大騒ぎになった。うまく意思疎通ができない自閉症児はパニックを起こしやすい。幸い近所の人が保護してくれたが、夜、泣き叫び裸足で家を逃げ出した幼児の姿に、虐待を疑われ通報された。「警察から事情聴取され、情けなくて死にたくなった」と振り返る。
「新聞を読んで泣きそうになった」と書いてきた男性は先月、3歳の息子が自閉症と診断されたばかり。「社会的に自閉症が認知されていないので周囲に言えない」と悩む。埼玉県の主婦(32)は、夫と両親 から「障害は母親のせいだ」と責められた。「周囲からは『親のしつけがなっていない』と批判の目にさらされ落ち込んでしまう」と漏らす。

愛知県の女性(37)は二男(11)が1歳ごろから、玄関の壁に便を塗る「ウンチアート」に悩まされた。4歳を前に突然話し出して問題行動は減ったが「言ってはいけないこと」が分からないために、通りすがりの人に「変な人」「あの人の着てる服、変だよね」と口走った。見た目はごく普通の小学生なだけに相手は激怒して「甘やかしている」「しつけが悪い」と言い寄られた。障害の説明をして謝っても「理解されたことは今まで一度もありません」。

教育・福祉関係者の自閉症への理解のなさに苦しむ親も多い。
和歌山県に住む小学生男児の主婦(39)は、乳幼児健診で不安を相談した保健師から「友達もいないから子育ての悩みを相談したいの?」と相手にされなかった。担任教師はパニックを起こす子供に「帰れ」と怒鳴り、校長には「こんな大変な子が学校に見てもらえるだけありがたいと思いなさい」と諭された。

「虐待を受けている一部の幼児は自閉症なのではないか」と記事で指摘したことについて、山口県の女性(43)は「愛情を注いでも反応がない息子に対し、憎しみさえ生まれた」と複雑な感情を吐露した。子供の首を絞めそうになったこともある。「母なのに愛情が持てない」とは誰にも言えなかった。「息子をたたきながら、『助けて』と悲鳴を上げていた」と告白する。また、自閉症が先天性障害と知られていないため「障害と分からず虐待に至る親は多いのでは」と理解を広める必要を強調した。
 
◎ことば=自閉症 視覚や触覚などをうまく整理できない先天的な脳の機能障害。アスペルガー症候群などを含めた「自閉症スペクトラム(連続体)」の発生率は1%前後といわれる。障害の特性は個人差が大きく、言葉を持たない人もいる一方、知的な遅れがなく大学に進学す人もいるが、表情や言外の意味をくみ取ることが苦手な人が多い。