発達障害者支援法

 
http://d.hatena.ne.jp/arcturus/20040512#p1

発達障害者:支援法成立 課題と今後を展望(毎日新聞 2005.1.9)
 
発達障害者支援法が昨年12月の臨時国会で成立した。自閉症アスペルガー症候群学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害ADHD)などの発達障害は全人口の2%とも6%とも言われているが、知的な遅れを伴わない限り法的には福祉サービスの対象外だった。政府は同法成立を受け、来年度予算案に、早期支援の態勢作りなどに約10億円を計上。福祉予算が軒並み削減される中で、異例の重点配分と言える。自閉症児と家族をテーマにしたテレビドラマ「光とともに……」が話題になるなど世間の関心も高まってきた。発達障害をめぐる課題と今後を展望する。【神戸金史】

■本人も自覚困難
「完治するというものではないが、発達障害は幼いうちからの療育で社会適応などの面で軽症化できる。障害のある本人が将来生活しやすいようにしてあげることは必要ではないか」。長年、発達障害児の診断や療育にかかわってきた東京都立梅ケ丘病院の市川宏伸院長は説明する。

実は、発達障害者支援法が成立する前、「早期発見」を行政の責務とする同法に対して一部の障害者団体から異論が噴出した。「早期発見は障害者のレッテル張りにつながり、普通学級から排除されるなど、差別と隔離を促す恐れがある」しかし、本人や家族にすら「障害」があることに気づきにくいのが、発達障害の大きな特徴だ。

発達障害は先天性の脳の機能障害といわれる。自閉症児は親と目を合わせたがらないなど、身近な人ともうまくコミュニケーションできず、興味や関心が非常に偏っているなどの特徴がある。算数や漢字など特定の分野だけできないLDや、相手の反応を確かめずに行動してトラブルを生じやすいADHDなど、いずれも外見からは障害の存在が分かりにくく、本人も「なぜ意思疎通が出来ないのか」と悩み、孤立している人が多い。
「障害が分からなければ療育にもつながらない。早期診断によって適切な療育を受ける機会を保障すべきだ」と日本自閉症協会は、関係者を説得してきた。

発達障害者は国内に数百万人はいる計算だが、福祉サービスは身体、知的、精神の3障害が対象で、知的な遅滞を伴わない高機能自閉症アスペルガー症候群などは蚊帳の外に置かれてきた。同協会の石井哲夫会長は「専門の児童精神科医は、多く見ても全国で200人程度」と話す。初診待ちに2年以上かかることもある。

■誤解に傷つく親
同法のもう一つの大きな特徴は、家族支援を明記したことだ。
法案作成で、議員連盟事務局長として中心的役割を担った福島豊衆院議員は、自らも発達障害を持つ子供の父親だ。「支援体制があまりになく、どう育てたらいいのか手探りで考えるしかなかった」と振り返る。

コミュニケーションに独特なハンディのある発達障害者は性犯罪や詐欺などの被害者となることが多いが、03年に長崎市で起きた幼児誘拐殺人事件では、加害少年(当時12歳)がアスペルガー症候群と診断された。長崎家裁は処分決定の理由の中で、親の厳しい養育態度が「少年のコミュニケーションのつたなさ、共感性の乏しさに拍車をかけた」と指摘した。鴻池祥肇構造改革特区・防災担当相(当時)は「親なんか市中引き回しの上、打ち首にすればいい」と発言して物議をかもした。

社会性の欠如、共感や創造性の乏しさは発達障害の代表的な特徴だが、世間からは「親のしつけが悪い」「愛情が足りない」と誤解されることが多い。児童虐待や親子心中の被害者の中に相当数の発達障害児がいると、以前から専門家の間では指摘されてきた。わが子の障害に気付かず混乱したまま、世間の誤解や偏見に傷つけられ、追いつめられている親は多い。

厚生労働省は親に対する相談支援を進めるため、現在20カ所ある「自閉症発達障害支援センター」を来年度は16カ所増やし、いずれは全都道府県と政令市に設置する方針だ。

■専門職も理解不十分
東北地方の小学生(10歳)は、父親のしつけに反発して家出した。児童相談所は「親の虐待が原因」と判断し、保護した小学生を両親から引き離したまま1年以上がたつ。少年はADHDで、父親との意思の疎通がうまくできなかったことが原因と両親は主張する。父親(40)は「児相職員にはADHDに関する専門知識がなかった。一方的に虐待と決め付けられ、このままでは療育もできないまま少年期が過ぎてしまう」と懸念する。

福祉や教育関係者の間でも発達障害は十分に理解されていない。厚労省は、全都道府県と政令市で関係部局の協力体制を整備する検討委員会を作るため来年度予算に2億5000万円を計上した。
大塚晃・障害福祉専門官は「乳幼児期から成人期まで一貫した支援体制を作っていく中で行政内部で啓発を進め、10年後までには社会に正しい理解を広めたい」と話す。