障害者自立支援法案

 

はい!センセイ:’05衆院選/2 障害者自立支援法(毎日新聞 2005.9.3)
 
◇負担増の前に、働く場所を増やして−−所得保障の実現、問いたい
国会では「郵政民営化」以外の法案も審議されていたが、解散に伴い廃案になったものもある。その数、実に61。仕切り直しとなり、新しい議員と政権で改めて論議される。その賛否や考え方も、投票の基準の一つになる。
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「一瞬喜んだけど、勝利感はないですね」。東京都東村山市知的障害者授産施設「あきつの園」で木工の仕事をしている山田憲二郎さん(47)は「障害者自立支援法」の廃案を、こう振り返った。身体、知的、精神の障害者施策を一元化し、ホームヘルプなどのサービスを受ける障害者にも、費用の1割負担を課す内容の法案だ。
03年に福祉の現場を施設から地域社会に移す中で、サービスは自治体側が枠を決める「措置制度」から、障害者が自分で選ぶ「支援費制度」に変わった。費用は障害者の収入に応じた負担で、低所得者が多いため約95%が無料。初年度から128億円の赤字になり、政府は介護保険との統合を念頭に「1割負担」を盛り込んだ。しかし低所得者が多い障害者に定率の負担を課すと、重度の人ほど負担が重くなる矛盾があり、当事者や家族らは反対している。
山田さんもその一人。東村山市の自宅で年金暮らしの母親(76)と2人暮らし。工賃(約2万円)と障害基礎年金(2級、月額約6万6000円)が主な収入源だ。東京都知的障害者育成会の本人部会「ゆうあい会」の会員約200人の代表として、集会などで、政府に定率負担の再考を訴える。「とりわけ、グループホームで暮らす仲間のことが心配。年金は6万〜7万円で、作業所や授産施設の工賃は1万〜2万円。グループホームは家賃や光熱費だけで7万〜9万円かかり、この上どうやって利用料を払うのか。国にお金がないのは分かるが、障害者にもお金を払う余裕がないことを分かって」と話す。
障害者の年金や収入の水準は、生活保護を下回るケースも少なくない。法案では所得に応じて負担の上限を設けたが、それでも数万円の負担増になるケースがあり、低所得者の負担軽減と所得保障が法案審議で争点となった。所得保障をめぐっては、小泉純一郎首相も「大変重要な課題。今後とも検討する」と述べたが、民主党は所得保障制度の確立や低所得者の負担軽減策の拡充が実現するまで定率負担の導入凍結を主張。与野党対立の構図になっている。
障害者自立支援法で就労支援が強く打ち出されたのはいいこと。だが、今すぐ定率負担を導入するとグループホームや作業所の利用料が発生する。払えないため実家に帰ったり作業所をやめたりすれば、逆に自立の機会をそぐことになりかねない」。東京都世田谷区の住宅街にある区立知的障害者就労支援センター「すきっぷ」の宮武秀信施設長(56)は、法案の評価に頭を悩ます。
すきっぷは98年に開所した。就労希望の知的障害者が2年間の訓練で働く力を身につけ、一般企業などに就職するための授産型就労支援センターだ。これまでユニクロスターバックスなどに約130人が就職。就労率は95%に上り、全国から見学者が後を絶たない。養護学校を出ても7割は就職できず、作業所や授産施設に通っているが、就労できれば収入は10万円前後になり、障害基礎年金と合わせ自立した生活が可能になる。就業拡大は何よりの所得保障。宮武施設長は「まずはこうした就業訓練の場を市町村ごとに整備するのが大切だ」と考える。
立教大の高橋紘士教授は「これまで障害基礎年金の水準や所得保障のあり方について、きちんとした議論が行われておらず、今回、この問題が焦点になったのは意味があった」と指摘する。そのうえで「無料のサービスはモラルハザードを起こす可能性もある。1割負担を原則として、障害者の個々の状況に対応できる所得保障の仕組みを整備していくのが現実的ではないか」と話す。
山田さんは「地域で自立した生活を送るため、所得の保障をどう実現するのか、候補者に問いたい」と話している。【有田浩子】
◇廃案になった主な法案◇
障害者自立支援法少年法等の一部改正▽郵政民営化等関連6法▽臓器移植法の一部改正▽高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援法▽国会議員の歳費、旅費及び手当法の一部改正▽政治資金規正法の一部改正▽被災者生活再建支援法の一部改正

 
各政党への公開質問状 回答公表
 
 

’05総選挙 暮らし見つめて 介護保険の範囲拡大( 2005.9.6)
 
衆議院解散後の先月十日、日本障害者協議会は都内で緊急フォーラムを開いた。勝又和夫代表は「障害者自立支援法案は廃案となったが、臨時国会で同じ法案が出されるという。この期間の行動が問われている」と、今選挙の意義を強調した。
自立支援法案は、初の大幅な見直しが行われた介護保険制度で、「保険料をより若い年代からも負担してもらい、障害者を含めた、年齢にかかわらず介護が必要な人すべてにサービスを受給する」(範囲拡大)といった課題が先送りされたのを受けて、将来、介護保険への移行もにらみ、先の国会に上程された。
同法案は身体・知的障害を対象にした支援費制度を、精神障害なども含めた内容にすることも狙い、サービスの利用に応じて一割を負担してもらう。だが、無料で利用してきた大半の障害者の負担は大きいとして障害者団体などが反対。結局、解散に伴い廃案となった。

そうした中、「介護保険や自立支援法案では、社会参加の機会が奪われた若い障害者の支援をどうしようとしているのか見えてこない」と苦悩するのが、重症筋無力症を患う山本創さん(34)=東京都=だ。
この病気は末梢神経と筋肉の伝達障害で、疲れやすく全身の脱力が生じる難病。週二回、六時間程度しか働けないが、症状に波があるなどの理由で障害者手帳は交付されず、施設利用やホームヘルプなどは受けられない。介護保険も対象外だ。
山本さんが会長を務める「難病をもつ人の地域自立生活を確立する会」には、同様に制度のはざまにいる仲間も多く「年齢や疾病で介護の対象を決めるのでなく、疾病により起きる社会生活上の困難さを支える制度づくり」を訴えている。
範囲拡大については、介護が必要なすべての人を対象にすることは歓迎するが、所得保障の問題は「見えない」。また、障害の程度を一律の基準で判定する介護保険の要介護認定に近い仕組みでは「正しく障害による困難さをみてもらえない」と心配は尽きない。

範囲拡大の問題はそもそも二〇〇〇年の介護保険創設前からの懸案。施行後、サービス給付費は増え続け、支援費制度も同様に利用者の増加で財政難に陥る中で再び浮上した。しかし、若い人から保険料を徴収することへの理解が得られないとしてまとまらず、〇九年をめどに検討することが付則に盛り込まれた。
各党はマニフェスト政権公約)で、範囲拡大の問題などをどうとらえているのか。
自民は改正介護保険法の内容を着実に実施し、自立支援法案も再提出して成立を目指す。公明はマニフェストで直接に触れていないが同じ立場だ。民主は「〇九年のエイジフリー化(範囲拡大)」と明確にうたうが、現在の自立支援法案では障害者の所得保障がないとして反対している。
一方、共産は「障害者の施策は税でまかなうのが筋」と範囲拡大に反対し、「自立支援法案も負担増になる」と主張。社民は介護には触れず、自立支援法案についてだけ「反対」を示している。
厚生労働省障害福祉専門官で和洋女子大の坂本洋一教授は、「介護は難病患者や重症心身障害児らも必要としている。介護保険はゼロ歳児からの全国民が安心して暮らすためのものにすべきだ。一割負担や所得保障の問題だけでなく、(将来の教育、就労も含め)自立の意義が問われている」と話している。  (遠藤 健司)