MDMAをPTSD治療に

 

米麻薬取締局『エクスタシー』をPTSD治療に使う臨床試験を許可(hotwired 2004.3.2)
 
米麻薬取締局(DEA)がついに、『エクスタシー』、別名『MDMA』(メチレンジオキシメタンフェタミン)の心的外傷後ストレス障害(PTSD)治療を目的とした臨床試験にゴーサインを出した。この薬の治療効果を信じる小さな団体による懸命の努力が報われたことになる。
もし、エクスタシーのPTSDへの治療効果と安全性が証明されれば、セラピストたちは合法的にこの薬を処方できることになる。

MDMA研究に資金を提供している幻覚剤学際研究学会(MAPS)のウェブサイトによると、DEAは2月24日(米国時間)に臨床試験を許可したという。まず、12人のPTSD患者を被験者とした試験が行なわれる。サウスカロライナ州チャールストンで開業している精神科医、マイケル・ミソファー氏は、MAPSを創立したリック・ドブリン会長とともに4年近くにわたって臨床試験の許可を求めてきた。ドブリン会長は、MDMAが違法だとみなされる以前から、MAPSを通じて臨床試験の認可を求め続けてきた。
「ここまで20年かかった。(1984年に)DEAが非合法化に向けて動いたのを受けて、すぐにFDA(米食品医薬品局)から承認を得て研究を行なおうと働きかけをはじめた」と、ミソファー氏は述べている。

エクスタシーはパーティー用のドラッグとして知られているが、1985年に非合法とされる前にはすでに、実生活で問題を抱えた人々の治療用に使われていた。
DEAがMDMAを「スケジュール1」薬物――医学的な効用が確認されておらず濫用の可能性が高いことを意味する――に分類した後も、非合法を承知で治療に使うセラピストもいた。
エクスタシーを使うと多幸感、親密感、他者への共感が得られることは、娯楽用にこの薬を使う人々だけでなく、PTSDをはじめとする心理的な問題に苦しむ人々の治療に携わるセラピストも長い間にわたって認めてきたことだ。セラピーとMDMAを併用することによって、患者がその体験を日常生活に統合してゆけるようになるという意見も多い。
「多くの臨床医は、以前から効果があるのではないかと考えていた。またセラピストたちは、PTSDを含むさまざまな心理的障害に対して、MDMAが大きな治療効果をもつ可能性を示す、多数の実例を知っている」と、サンフランシスコで開業している心理学者、マイケル・クライン氏は語った。

MAPSの資金提供によって行なわれた数回の予備試験で、MDMAを治療に使う際の安全性が確認された後、FDAは2001年に臨床試験を承認した。しかし、まだいくつかのハードルが残っていた。独立機関から試験方法の承認を受ける必要があったことに加え、MDMAが――LSDやヘロインと同じ――スケジュール1に分類されていたため、DEAの承認も必要だった。
これから行なわれる臨床試験で、ボランティアの被験者たちは、パーデュー大学で合成された純粋なMDMAを125ミリグラムずつ2回服用する。
プラシーボ効果を確認するため、対照群にも対照剤が与えられる。試験は3週間から5週間の間隔をおいて2回にわたって行なわれ、トークセラピーも併用される。被験者はMDMA投与後、名称は明らかにされていないクリニックに1晩滞在するという。
ミソファー氏は、この試験がDEAの要求するすべての条件を満たしていることは明らかだったため、DEAから臨床試験のゴーサインが出るのは時間の問題だったと述べている。
FDAが研究結果を承認すれば、重罪やドラッグ関連の罪での有罪判決など、MDMAが目的外に使用されることを疑う理由がないかぎり、DEAも承認せざるを得ない」とミソファー氏は説明している。また同氏は、保管しているMDMAが悪用されないようMDMAを入れた金庫をオフィスの床に固定し、警報装置を設置しているという。

2002年9月、エクスタシーについて以前から批判的だったジョンズ・ホプキンズ大学医学部のジョージ・リコート教授が、MDMAはドーパミンを分泌するニューロン(神経細胞)を破壊するという研究結果を発表した(日本語版記事)ため、MAPSの運動にも遅れが生じた。しかしそのおよそ1年後、リコート教授は、試験の際に間違えて別の薬『メタンフェタミン』を使っていたことが判明したとして、この発表を撤回した(日本語版記事)。

米国立薬害研究所(NIDA)は、エクスタシーの危険性を人々に伝える際に、リコート教授と妻のウナ・マッキャン氏が発表したデータの多くを引用している。しかしリコート教授とマッキャン氏は、今回の臨床試験が適切な計画と管理の下に行なわれれば問題はないと思う、と述べている。いちばん大切なのは、患者がこの薬から得られそうなメリットだけではなく、リスクについても理解していることだという。
「そこには、MDMAのもたらす急性薬理効果に関連する副作用、脳にセロトニン神経毒症状を引き起こす恐れ、といったリスクも含まれる(しかしこれに限定するものではない)。もし被験者がこのようなリスクについて十分な情報を与えられ、その上で参加することを選ぶのであれば、そして臨床試験の計画案が科学的にも倫理的にも容認できると適切な規制当局が判断したのであれば、他の臨床試験プロジェクトと同じ基準で扱うべきだ」とリコート教授は述べた。
MAPSのリック・ドブリン会長は、リコート教授の研究は政治的な動機に基づくものであり、発表を撤回したことで、同教授の研究すべてを見直す必要があることが証明されたと思う、と述べている。[Kristen Philipkoski 日本語版:鎌田真由子/湯田賢司]