靖国神社小泉首相の参拝は「違憲」 福岡地裁判決(毎日新聞 2004.4.7)
 
小泉純一郎首相の靖国神社参拝は政教分離を定めた憲法に違反すると主張し、九州・山口県などに住む211人が小泉首相と国を相手に精神的苦痛を受けた慰謝料として1人当たり10万円の損害賠償を  求めた訴訟の判決が7日、福岡地裁であった。
亀川清長裁判長は「社会通念に従って客観的に判断すると、憲法で禁止されている宗教的活動に当たる」と述べ、違憲判断を示した。小泉首相靖国神社参拝についての違憲判断は初めて。
その上で、「参拝により原告らが憤りなどを抱いたとしても、法的利益の侵害があったとは言えない」と述べ、請求は棄却した。原告は控訴しない方針。原告側は「実質勝訴」とみて控訴しない方向で検討している。原告が控訴しなければ、請求が棄却されているため、民訴法の規定で国側は控訴できず、判決は確定する。

首相の靖国神社公式参拝を明確に違憲とした司法判断は、仙台高裁が91年1月、岩手県議会決議をめぐる住民訴訟で行った判決(確定)に次いで2例目。首相自身を相手とした訴訟では初めて。国を相手にした訴訟では、中曽根康弘元首相の公式参拝について「違憲の疑いが強い」と判断した大阪高裁判決(92年7月、確定)があるが、明確に違憲と判断した判決は初めてだ。
判決は、政府が戦没者追悼のための公営施設のあり方を考え懇談会に検討を委ねる中、小泉首相が4回も継続的に参拝したとして「憲法上の問題や諸外国の批判を十分に承知しつつ自己の政治的意図に基づいて参拝を行った」と述べた。
その上で「本件参拝直後の終戦記念日には前年の2倍以上の参拝者が参拝しており、神道の教義を広める靖国神社を援助する効果をもたらした」と指摘した。しかし、慰謝料請求については「原告らに不利益な取り扱いをするものではなく、宗教的人格権を憲法上の人権と認めることは出来ない」と述べ退けた。
小泉首相靖国神社参拝をめぐっては、全国6地裁で違憲訴訟が起こされ、判決は大阪、松山地裁に次いで3件目。いずれも参拝が違憲かどうかの判断に踏み込まず、請求を棄却している。

訴えていたのは、福岡県春日市浄土真宗本願寺派僧侶、郡島恒昭さん(75)ら仏教、キリスト教の宗教家や市民、肉親が靖国神社に合祀された遺族、戦前に強制連行された在日朝鮮・韓国人ら。
小泉首相は01年8月13日、公用車で靖国神社を訪れ参拝。「内閣総理大臣 小泉純一郎」と記帳し私費で3万円の献花代を支払った。
小泉首相側は「靖国神社に参拝する信教の自由を制限しようとする違法な提訴だ」と主張し、訴えの却下を求めていた。【吉富裕倫】