徳見さん「障害者代表として勝ちたい」あす控訴審判決/神奈川毎日新聞 2005.1.18)
 
◇歯科衛生士の徳見さん
横浜市の採用基準、見直し迫る
「障害者は働いてはいけないのですか」――。車いすでの仕事は無理などとして、市の外郭団体横浜市学校保健会から解雇された同市青葉区の歯科衛生士、徳見康子さん(57)が、解雇無効を訴えている裁判の控訴審判決が19日、東京高裁で言い渡される。解雇通知からちょうど10年。「車いすの歯科衛生士」は実現するのか。徳見さんは「働きたい障害者のためにも負けられない」と話す。「教育現場だからこそ、障害者を受け入れるべきだ」と訴えている。【内橋寿明】

1967年、同保健会に就職した徳見さんは、市内の小学校を巡回し、児童の歯の検診の仕事を担当。しかし、1日数百人の児童を、中腰で前かがみ、口を広げるために手を上げっぱなしという労働で、首や肩が痛み出した。78年、頸肩腕症候群と診断され、81年には労災認定を受けた。
症状はさらに悪化し、88年にはせき髄が細くなる病気で休職。術後のリハビリ中だった91年2月、転がってきたリハビリ器具にあたり転倒し、この事故が原因で車いすでの生活になった。同保健会は休職期限の切れた92年4月以降、徳見さんを欠勤扱いにし、「自力通勤、自力勤務ができない」として95年1月に解雇した。

徳見さんは、解雇当日から、23日間、ハンガーストライキで抗議の意思を示した。事務室の机の周りはロッカーでバリケードを作られたが、“自主出勤”を続けた。その後も、各地で解雇無効を訴えるビラを配ったり、支援者と集会を開くなどしてきた。徳見さんは「教育現場のことだからこそ、負けられない。教室に車いすをわざわざ持ってきて人権教育をするよりも、車いすの私が生徒と触れ合う方が、学ぶことは多いと思うんです」と働くことにこだわる理由を話す。多くの人の支援を受け、「働きたい障害者の代表として闘っているつもりだ」と話す。

横浜地裁の1審判決は、「車いすでの作業は可能」と認めたが、「左手の握力が弱く、歯口検査は難しい」として、請求を棄却した。
控訴審で徳見さんは、左手が仕事に差し支えないことを証明するため、実際に小学生を検診する姿を撮影したビデオを提出。また、市側の「立ったり座ったりできない」という主張に「児童が椅子に座れば問題ない。2つの椅子に座った児童を交代で検診すれば、時間も変わらない」ことをビデオの中で実践した。
判決に向け徳見さんは、裁判の勝ち負けだけではなく、「『自力通勤、自力勤務ができること』という市の障害者の採用基準を見直すよう働きかけたい」と意欲を燃やしている。
原告代理人の森田明弁護士は「障害者政策は一定の整備が行われてきたが、まだまだ限界がある。その限界を法的な権利として勝ち取れるかどううかだ」と意義を語った。

解雇無効訴訟:「車いすで解雇」は有効−東京高裁が控訴棄却/神奈川毎日新聞 2005.1.20)
 
◇元横浜市保健会歯科衛生士訴訟
車いすでの仕事は無理などとして、横浜市学校保健会から解雇された同市青葉区の歯科衛生士、徳見康子さん(57)が解雇無効などを求めた訴訟の控訴審で、東京高裁は19日、有効とした1審・横浜地裁判決(04年2月)を支持し、控訴を棄却した。徳見さんは「就労環境の整備などを進めれば就労は可能」と主張したが、根本真裁判長は「障害者に対する使用者の配慮義務を超えた人的、経済的負担を求めていると評価するしかない」と判断した。【坂本高志】

◇「使用者義務超える」
判決によると、徳見さんは67年、横浜市教委から委託を受け小中学校の歯科巡回指導などを行っている同保健会に就職した。しかし、せき髄が細くなる病気にかかり88年から休職。リハビリ中の転倒事故で91年2月、介助者が必要な車いす生活となった。保健会は休職期限の切れた後の95年1月に「自力で通勤や勤務が出来ない」との理由で解雇した。
徳見さん側は「就労可能性を十分検討せずに解雇し、障害者差別にあたる」と訴えたが、判決は「障害者の社会参加の要請という観点を考慮しても、解雇権濫用とはいえない」と退けた。

◇「障害者の雇用考えない、20年前の価値観だ」−−原告の徳見康子さん会見
「障害者の雇用を全く考えていなかった20年前の価値観だ」。原告の徳見康子さんは、横浜市内で開いた会見で、控訴を退けた東京高裁の判決に怒りをぶつけた。同席した森田明弁護士も「『車いすでの作業は可能』と認めた1審判決よりも後退し、障害者の権利を明確に否定している」と批判した。
横浜地裁は1審で、工夫すれば、車いす利用者でも仕事はできることを認めながら、左手の握力不足を理由に請求を棄却した。このため原告側は控訴審で、いすに座った小学生を検診する様子を撮ったビデオを提出。二つのいすに座った児童を交代で検診すれば、かかる時間も変わらないことを示した。

しかし控訴審判決では、徳見さんを高いところに座らせたり、いすを複数用意したりする雇用者側の労力、検査の効率性などを理由に「検査の遂行に支障があることは明らか」と徳見さんの主張を退けた。
徳見さんは「結局、健常者と全く同じ形で仕事ができなければ解雇できるという判決。障害者は働いてはいけないと言っているみたいですね」と声を詰まらせた。上告の方向で検討するという。被告の横浜市学校保健会は「当方の主張が受け入れられた判決」とのコメントを出した。【安高晋】