政治と行政

 

出水の会 一時金支給など要求 環境省は「支給できない」(熊本日日新聞2005.8.24)
 
水俣病認定申請者らでつくる鹿児島県出水市の水俣病出水の会(尾上利夫会長)は二十三日、環境省に対し、新規認定申請者への一時金支給などを求める小池百合子環境相あての要求書を提出した。これに対し同省は従来通り「支給できない」と答えた。
尾上会長ら十人が東京・霞が関の同省を訪問。大臣対応の予定だったが、小池氏自身が郵政民営化法案反対者に対する自民党の“刺客”として衆院東京10区から出馬するため、炭谷茂事務次官が応対した。
尾上会長らは同省が四月に示した水俣病新対策に対し、「一九九五(平成七)年の政治決着時の救済内容と差があり、納得できない」と表明。原因企業チッソの負担による新規認定申請者への一時金二百六十万円や同会への団体加算金の支給などを求めた。
同省は「九五年の一時金や団体加算金の支給は政治の力で実現したのであり、行政の力ではできない」と回答。新対策による医療費自己負担分の全額支給などに理解を求めた。終了後、尾上会長は「弁護士会に人権救済を申し立てるほか、認定基準の見直しや損害賠償を求める訴訟の提起を考える」と語った。(亀井宏二)

新保健手帳 交付には認定申請取り下げが条件 環境省方針(熊本日日新聞 2005.9.11)
 

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一九九五(平成七)年の政府解決策に基づき旧保健手帳を交付した時と同様の対応。ただ、同省は少なくとも三年間は新保健手帳の交付申請を受け付ける方針で、「本人の選択により、いつでも認定申請や訴訟のルートから乗り換えることができる」と強調している。
新保健手帳の交付対象は原則、原因企業チッソが排出したメチル水銀によって水俣湾やその周辺海域の汚染が続いたとされる六八年以前に沿岸域に居住し、魚介類を多食したと認められる人。例外的に行商などを通じ、同海域の魚介類を多食したと認められる人も含める。このうち、手足の四肢末しょう優位の感覚障害や全身性の感覚障害などに加え、(1)しびれ(2)ふるえ(3)けいれん―など、指定する症状のいずれかが認められば手帳を交付する。

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なんだか「訴訟上等」みたいだ××
 

尾上利夫「出水の会」会長インタビュー(2005.4.21)
 
水俣病特有の同じ症状で、10年前の政治解決策の症状の患者が重いとか軽いとか線を引けないでしょう。なのに、どうして10年前の解決策を出してこんのか。明らかに新規に申請を上げた者に対する差別じゃないか。差別して患者を足で踏みにじっていく、おまえたちは保健手帳で我慢しろという小手先のごまかしだ。これは許されない。納得できませんよ。環境省として全面的な解決の意志を持ってるんだったら少なくとも95年の政治解決策の線を出してきなさい。なんでそんなに我々を無視するのか? あなた方は裁判でもしてみろ、やれということか? どうして、こういう差別をするのか?―やむを得ず、繰り返し言わざるをえませんでした。

ちょっとくすくす。
いえ笑ってはいけないですが、いかにもかわいゲのない被害者(患者あるいは弱者)ぽいなって。
「認定基準は見直さない」にしても、熊日の記事によると医療手帳対象にあたるひとは多そうですから
そのひとたちにすら「どうして10年前の解決策を出してこんのか」は、私もそう思います。
新保険手帳の交付対象が拡げられるのは、最高裁判決を受けては当然のことでしょう。
では、従来の認定基準でも認定しなければならなかったひとを認定してこなかった*1ことや
審査を10年以上も保留にするケースもあったことへの反省や謝罪はどう示すのだろうと思ってしまう。
患者には厳しすぎる基準をもってしても、制度として公平に認定審査してこなかったことが
ますます地域の混乱を大きくしたのではないですか。
なのに「地域に混乱をもたらすから」と、いまになって行政が言うのは、無責任に思えてなりません。

 http://d.hatena.ne.jp/arcturus/20050407
 
 

断面2004 水俣病基準の見直し/二重基準で現場は戸惑い(東奥日報 2004.12.11)
 

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「補償協定がある以上動きがとれない」。環境省幹部は基準と患者への補償がリンクしていることが見直しを難しくしていると説明する。七三年、患者と加害企業のチッソとの間に結ばれた補償協定は認定患者に最低千六百万円の一時金と医療費などを約束。基準を緩和すると、患者増に伴い補償金支払いの急増につながる懸念がある。
さらに環境省は、九五年の村山政権下の政治解決で、未認定の約一万千人が二百六十万円の一時金や手当を受け取り和解した経緯を指摘。「政治決着した枠組みを行政が勝手に変更はできない」という。
一方、熊本県は十一月二十九日、同訴訟の原告団を含む未認定患者に国と県が共同で療養費を支払う独自の被害者対策案を国に提出。認定基準の見直しには触れず現行制度の枠内で、患者への補償制度の再構築を訴える。県の推計では、対象者は熊本、鹿児島両県で三万四千人。現在の認定患者二千九百五十五人の、十倍以上の患者が埋もれているという見方だ。

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「政治決着した枠組みを行政が勝手に変更はできない」が、ずっと引っかかってて
行政と政治がどう線引きできるのか、よくわからない。
その枠組みを、おかしいといったのが最高裁判決じゃないの??それだけじゃだめなの??
 
衆議院議員松野信夫君提出水俣病問題における被害者救済に関する質問に対する答弁書(2005.4.22)
「救済の対象」ではあるが水俣病患者ではない。
これが、いま“政治”が出せる答えなのかな、こんな不自然なのに…
いまになっても「できることとできないことがある」で切り捨てるしかないですか??
「政治決着の重み」というけれど、それは、水俣病患者のくるしみより重いものですか??
私は、そうは思わない。
「裁判の機会は開かれているのだから、不服があれば提訴すればいい」なら、行政はなんのためにあるのかな…
長期に渡る裁判に、経済的にも、家族の状況や自身の心身ともに耐えうるひとでなければ救済されないのでは
不公平でしょうもの。
 

除斥期間うんぬんの議論もあるけど、患者たちは一生水俣病の病状に襲われ続けているんです。その人たちはそのまま死ねということなのか!そういう事実に裁判官はもう目をそむけないと思っています。しかも、そういう症状をもちながらも何も訴えることができない人たちもたくさんいるんです。そういう人たちの掘り起こしをやって、それなら助かりますからなんとかしてくださいと言うて、初めて賛同してくれる人たちがいま出始めているんですよ。声をかけてくれてありがとうという人たちが多いんですよ。だから、私はやらなければならないと決心したわけです。(尾上利夫さん)

チッソに「NO」を言わなかったのは行政だけじゃない。
水俣病患者を捨て置いたのも行政だけじゃない。
なのに司法によってしか被害者本位の解決ができないというのは、おかしいと思うんです。
お金がかかるからできない、ですか…
ん、ここでこんなこと書いてもなんにもならない。

 

*1:1990年代になって、実際の認定作業が国の認定基準(昭和52年判断条件)に基づいて行われていたかどうかを検証する論文が発表された。判断条件に基づけば認定されるはずの患者約900人のうち、認定されたのは約200人であった。医学的根拠もなく狭すぎるという国の認定基準さえ、認定審査会は守っていなかったのである。『医学者は公害事件で何をしてきたのか ISBN:4000221418