「今からでも不知火海一帯の健康調査を」

 
新保険手帳の交付が始まりました。
熊本、鹿児島、新潟の495人の申請のうち交付対象者は379人。
対象外となったのは106人で、申請者の約23%にあたります。
交付対象者のなかで認定申請もしている55人については、その取り下げが交付の条件となります。
熊本県の交付対象者277人では、その80%は認定申請歴のない、いわゆる「潜在患者」だそうです。
 

新保健手帳交付 患者団体、「新たな切り捨て」と反発熊本日日新聞 2005.11.30)
交付要件は、政府解決時に環境省が定めた症状。六八年十二月までに不知火海沿岸に居住し魚介類を多食した疫学条件に加え、(1)四肢末しょう優位の感覚障害(2)全身性の感覚障害があり、しびれや震えがある―など。新保健手帳では、申請者は医療機関の所見書と居住歴などを提出し、各県が判定する仕組みだ。
熊本県は県職員(医師含む)のほか、神経内科の専門委二人にも審査を一部委託。対象外となった九十五人のうち半数近くの三十九人は、感覚障害に一切の症状が出ていないという。残りは半身の感覚障害などで、県水俣病対策課は「環境省が定める基準に合っておらず、メチル水銀の暴露が証明できない」と説明する。

私も、てっきり9割以上認められると思ってましたです、なんとなく勝手に…
要件を満たしていなければ交付されないのは当然なので「患者切り捨て」とは言えないですけど
申請に踏み切れないでいる潜在患者が、これであきらめてしまうことはあるのじゃないかとは思います。
それもまた、被害者を捨て置くことになってしまいますし、なにより
この数字に「切り捨て」と言わせてしまうのは行政が信頼されていないからではありませんか。
 
公健法の認定では、被害者に厳しい判断基準であるうえに認定すべきひとを認定してこなかったり
実態調査も行わず、まともにカルテさえ残してこなかった行政への不信を簡単に払拭できないのは当然ですし
不信感がますます混乱を大きくしてしまうでしょう。
公平な拠りどころのない施策では信頼を得るどころか、不公平感だけがつのることになってしまいます。
調査も情報公開も行わずにきて、いま、期待を裏切る数字にどうやって信用を裏打ちすることができましょうか。
せっかくの手帳交付であっても、です…
認定審査会(まだ止まったままですが)では認定を棄却されるひとがもっとでるでしょう、たぶん。
そのまえに、いまからでも地域住民すべての健康調査を。その調査結果にもとづく検証をしていただきたいです。
これは、熊本県も要望していたことです。
地域の混乱をすこしでも小さくするためには必要だと思います。
 

認定申請者急増 不公平感噴出 研究グループ中間報告熊本日日新聞 2005.1124)
公害健康被害補償法に基づく認定申請か、一九九五(平成七)年の政治決着に伴う総合対策医療事業への申請経験があるのは、47・1%の百二十九人(認定申請のみ十四人、総合対策医療事業のみ八十九人、双方二十六人)。半数以上の百四十五人が、どちらも申請した経験がなかった。
申請しなかった理由(複数回答)で最も多かったのは、「水俣病と思っていなかった」の58・6%。健康状態を尋ねた設問では、手足のしびれを自覚症状として訴えた人が68・2%に上ったことなどから、研究グループは「多くの人が体調不良を抱えながらも、それを水俣病とは結び付けず、申請に至らなかったことがうかがえる」と指摘する。
次いで多かったのは「政治解決で水俣病は終わったと思っていた」(53・8%)、「子供・家族の結婚に差しつかえると思った」(51・0%)、「集落でのつきあいに支障が出ると思った」(49・0%)、「子供・家族の仕事に差しつかえると思った」(46・9%)など。差別や偏見への恐れを理由に挙げた人が多かった。
このほか、「申請制度を知らなかった」が42・8%、「認定制度に対する不満・不信を感じていた」が40・0%に上り、行政の対応が申請の抑制に影響したとみられるケースもあった。

第5回水俣病問題に係る懇談会 会議録(2005.10.25)より

関西訴訟、それから最高裁が問題にした国の責任は、排水の規制をしなかった、漁獲禁止をしなかったという点でありますけれども、そのほかにもたくさんの問題があります。その1つに重大な過ちと言いますか、メチル水銀の曝露の範囲、いわゆる住民の健康診断、健康調査、毛髪の水銀調査、こういうのをやらなかったということが非常に大きな混乱の原因になっていると思います。前回の会議で柴垣課長が説明されましたが、43年以後曝露がないと。そして、今、申請されている方々も体内に水銀が見られないと。それで、申請者の症状が果たしてチッソの排水に起因するのか、非常に判断が苦しいということをおっしゃいました。それはまさにこの時期にそういう基礎調査がなされていなかったということであり、今、環境省が悩んでおられるのはまさにここにあるわけであります。
ところが、国は全く反対のことをやったわけですね。「もう水俣病は終わった。」と34年ごろから言われ出したんですけれども、それを利用して、厚生省は食品衛生調査会の水俣食中毒特別部会を有機水銀中毒説を中間報告で出したとたんに解散してしまった。そして、関係省庁による水俣病総合調査研究連絡協議会というのをその後結成しますけれども、これも有機水銀説にアミン説をぶっつけて、それでうやむやにしてしまったということがあります。水産庁は原因究明を断念するし、水俣病研究を打ち切っております。それから、熊本県もせっかく始めた毛髪水銀調査を3年間でやめてしまった。こういう全く反対の方向に進んでしまった。(吉井委員)