「変な逃げ口上をまだやっていれば、何もできない」

 
認定申請は3700人になりましたが、審査会は停止したまま「5月の再開も厳しい」状況です。*1
再開の目途は立たず、治療研究事業*2の熊本・鹿児島両県の財政負担が膨らむ一方であることから
自民党水俣問題小委員会は「水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法」の改正を決めました。
4月中に法案を提出して今年度中に認定審査会を設置、設置時期は今後10年まで延長するものだそうです。
 

水俣病認定、国の審査会再開を検討 自民小委(朝日新聞 2006.3.8)
 
自民党水俣問題小委員会(委員長=松岡利勝衆院議員)は7日、水俣病患者の認定を判断している熊本県などの審査会が止まっているため、国の水俣病審査会を再開させ、認定作業を進める方向で検討に入った。過去に国がつくった審査会制度を参考に、約3600人の申請者の認定作業を目指す。9日の小委員会で、環境、財務など関係省庁を交えて議論する。
04年10月の最高裁判決が国の認定基準より幅広く被害者を認めたため、患者を認定してきた熊本、鹿児島両県の委員らは、現行の基準で認定することに難色を示した。そのため、審査会が開かれず、申請待ちの状態が続いている。
このため、小委員会では、認定基準を変えないまま、国の審査会で認定作業を行うことで、現在の基準を満たす被害者を救済する案が浮上している。しかし、地元の被害者からは「認定基準を変えない限り、申請者は切り捨てられるだけ」などの反発がでている。
水俣病の患者認定は、申請受け付け、検診、審査を県が担当している。78年、申請者が6000人規模に増え、対応できなくなったため、認定業務促進臨時措置法を議員立法し、国も認定業務を担当するようになった。その後、申請者が徐々に減ってきたことから、臨時措置法は延長されず、96年9月の申請受け付け打ち切り後、国の審査会は開かれていない。
同小委員会は9日の会合で、この国の審査会を再開させることで事態を打開することを提案する方針だ。臨時措置法の期限を延長する同法改正案を今国会に提出。来年度にも国の審査会再開を目指す。
小池環境相は7日の閣議後記者会見で、「小委員会の議論も踏まえて適切に対処したい」と、受け入れる可能性があることを示唆した。
だが、水俣病を診断できる専門家は少なく、国と県の審査会は委員が兼務する前例がある。政府が認定基準見直しを否定している中で、県の委員再任を拒んでいる委員に国の審査会委員就任を依頼する形となり、選任は難航するとみられる。

水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法
 
1年前は「改正については考えていない」*3としていましたから国が動くのは歓迎すべきでしょうけれど
熊本・鹿児島両県の財政負担が膨らむ一方だからというのも、なんだかな。
「国もあえて火中の栗を拾いに行く」*4て、かっちぶー(笑)
でも「被害者間の公平性は保たれている」とする認識では、ちっとも信用できないかもです。

被害者補償救済策 政府、複数併存「公平性ある」(熊本日日新聞 2006.3.4)
 
答弁書は、一時金や支給される療養費、手当などに違いがある理由として、(1)公健法に基づく認定または棄却の処分は水俣病のがい然性の程度に応じている(2)政府解決策は当時続いていた裁判の和解の側面を持つ―などを挙げ、「同じ被害者であるにもかかわらず、公平性が保たれていない」とする赤嶺氏の指摘を否定した。
複数の症状の組み合わせがなければ水俣病と認めない現行の認定基準については「再検討は考えていない」と明記。症状が一つでも有機水銀の影響を否定できない場合は認定するとしていた七一年の見解を、七七年に現行基準に変更したという指摘には、「認定審査会委員が医学的知見と経験を持ち寄り、認定の要件を明確化した。考え方を変更したのではない」と答えた。
赤嶺氏は「責任を果たそうという姿勢が感じられない答弁。被害者の置かれた現実は公平ではない。国をさらに追及していく」と話している。

水俣病問題における被害者救済の抜本的解決に関する質問主意書 提出者 赤嶺政賢(2006.2.22)
答弁書はまだUPされてません。
 
swan_slabさんのエントリから。

水俣病は、単に病理学的に救済策を考えればいいというものではない。
水俣病チッソを加害者とする公害と認定された1968年以降、患者たちの戦いの大部分は国との戦いだったのだ。
政府は、そのことに思いを致し、彼らが被った被害を矮小化することなく、多角的な視点から水俣の問題をとらえてゆくべきであろう。
 
95年の政治的決着とは(+ C amp 4 +)

 
 
審査会は設置するけれども認定基準は現行のまま、としています。
それでは棄却者を増やすだけでしかないのはわかりきってて*5そゆうのは切り捨てって言うんですよ。
だけどなんども同じこと繰り返してなにになりますか。ただ失望を、重ねさせたいですか??

膨らむ財政負担に配慮 自民党水俣問題小委員会(熊本日日新聞 2006.3.8)
 
過去にも国が臨時の認定審査会を設置したことがある。原因企業チッソの責任を追及した一九七三(昭和四十八)年の水俣病一次訴訟一審判決で原告側が勝訴。これを機に認定申請者が急増し、認定業務が停滞した。七六年には熊本地裁が「認定業務の遅れは違法な不作為」と断じた。
これに対し、自民党福島譲二衆院議員(当時)らが議員立法で、「水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法」を提案。七九年に施行され、国が臨時審査会を設置し、両県の審査会と同時並行で、審査に当たれるようにした。
その後、同法は数回にわたる改正で延長。計三百六十一人を審査し、三十三人を水俣病と認定した。しかし、国が審査した人数は、当時までの申請者全体の2%程度に過ぎなかった。

朝日新聞(2006.3.3)より
 
従来の水俣病裁判に比べて30〜50代の比較的若い層が目立つのも、今回の原告団の特徴だ。合わせると全体の4割、40代以下に限っても1割以上に上る。最年少の男性は過去の訴訟に例のない70年生まれという。
水俣協立病院の高岡滋・総院長は、比較的若い世代の認定申請や提訴がこれまで少なかったことについて、加齢とともに症状が悪化する傾向のほかに「偏見による結婚や仕事への悪影響を恐れる傾向があった」と指摘。

環境相私的懇談会 認定制度見直しの指摘相次ぐ(熊本日日新聞 2006.3.3)
 
環境相の私的懇談会「水俣病問題に係る懇談会」(座長・有馬朗人元文相、十人)は二日、東京・虎ノ門のホテルで第九回会合を開き、「被害救済と地域再生」を議題に集中審議した。ほとんどの委員が「(水俣病の)認定制度の見直しは避けられない」との考えを示し、環境省に国の責任の取り方を明らかにするよう求めた。
全委員が出席。元水俣市長の吉井正澄氏は「環境省が(新保健手帳などの)新対策を押し通しても、問題の解決にはつながらない。これ以上混乱を広げないためにも、新たな第三者機関で認定制度自体を議論すべきだ」と語った。
他の委員も「認定基準を定めてから二十年以上がたち、新たな研究成果も出ている。病像を整理する場をつくる必要がある」「厳密な条件を並べ、疑わしきを排除するのではなく、まず全被害者を救うべきだ」などと指摘。現行の認定制度に対する疑問が相次いだ。
環境省は「認定基準を変えるほどの新たな医学的知見はない」と反論。認定制度とチッソの補償協定が結び付いていることを理由に「行政がコントロール不能な部分もある」と説明した。
これに対し一部委員が反発し、「認定申請者は三千五百人を超え、新たな訴訟も起きている。この事態にどう対応するのか」などと迫った。同省は「新対策で一定の理解を得られると思ったが、新保健手帳だけでは不十分だったと認めざるを得ない」と弁明した。

 
 
 
チッソとの自主交渉などでリーダーとして活動してこられた川本輝夫さんは日記に

おれがかくあらねばならない理由はどこに、そして何にあるのか。

と書いていたそうです。
未認定のまま政治決着を受け入れたひとも、最高裁判決後あらたに申請したひとも、提訴を決めたひとも*6
みな胸にこの問いがあるはずです、行政はどのように答えられますか??
混乱も軋轢もあるかもしれない。それでも私は、認定基準は変えなければいけないと思います。
そうでなくては理不尽な差別でくるしめてきたことに、謝罪なんてできないでしょうもの。
 

「終わらぬ悲しみ」訴え 水俣病セミナーで被害者共同通信 2006.2.18)
 
水俣病が公式確認されてから今年で50年となるのを機に「水俣病経験を次世代に伝えるセミナー」(環境省主催)が18日、東京都内で開かれ、水俣病によって家族や地域が崩壊していった実情を被害者が語り「何十年たっても終わらぬ悲しみがある」と訴えた。
両親を水俣病で失い、自らも発症した熊本県水俣市の杉本栄子さん(67)は「母親が集落で初めての患者だったので、真夏なのにうつるから戸を開けるなと言われた」と、地域で激しい差別を受けた経験を話した。
チッソの工場排水が原因と分かり裁判をしようとした際も、口封じの形でチッソが漁民を雇用し始めたため、親せきから「やめろ」と包丁を突きつけられたこともあったという。
杉本さんは「企業も行政も弱い者同士闘わせて…」と言葉を詰まらせた。

ノーモア水俣病:50年の証言/6 患者互助会(毎日新聞 2006.3.7)
 
「認定を受ければ『金を持ってるだろう』といやがらせを受け、裁判の時にはチッソの切り崩しで地域や親族からもやめるよう圧力を受けた。病院で娘のカルテが無くなったこともあった」

 
「本当に国が最初からやるべきことをやっていれば今、認定申請者が何千人も出てくることはありえない」です。
 
 

*1:水俣病審査会「5月再開厳しい」認定制度見直しも困難−知事(毎日新聞 2006.2.28)

*2:認定申請者は未処分のまま一年間(一定の症状がある人は半年)を経過した場合、治療研究事業の対象となり国、県の折半で医療費が支給されます。

*3:水俣病の認定業務の推進のためには、検診及び認定審査に係る医師の確保が不可欠な条件であるが、このような業務に携わることができる医師の数は限られていることから、現時点においては、国及び関係県市が協力して、これらの医師の確保を始めとした検診及び認定審査の体制の整備を行うことが重要であると考えており、水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法(昭和五十三年法律第百四号)の改正については考えていない。 衆議院議員松野信夫君提出水俣病問題における被害者救済に関する質問に対する答弁書(2005.4.22)より

*4:審査委員選任「幅広く募る」環境省西日本新聞 2006.3.9)

*5:「その人の歩く姿や表情は、私が1961年ごろ病院で見た劇症型の患者さんそのものでした(不知火患者会 大石利生さん)」て潜在患者もいますから、ゼロではないでしょうけれども。

*6:不知火患者会は第4陣までで876人、出水の会では5月までに1500人が提訴の予定です。