政治決着模索へ

 
記事のくりっぷ。
 

水俣病50年:「被害者より企業優先」認定申請団体は反発−−自民小委見解/熊本(毎日新聞 2006.4.28)
 
26日の自民党水俣問題小委員会で「チッソ分社化」の必要性を強調した見解が示されたことに、認定申請者団体から「被害者救済が二の次になっている」と反発の声が上がっている。
同小委が取りまとめた「水俣病対策のあり方についての見解」では、現行認定基準を正当とし、基準を見直せばチッソの破たんを招くとした。また、分社化による収益力アップが必要と訴えている。一方で、肝心の今後の被害者救済については、(95年の)政府解決策に即した検討を示すにとどまった。見解は環境省ともすり合わせたもので、同省の意向も強く表れているとみられる。
関西訴訟の最高裁判決は、末梢神経障害説に立って「神経炎などと区別するため複数症状を必要とする」としている現行認定基準を事実上否定。中枢神経説を採用し感覚の識別障害だけで“水俣病”とする高裁判決を追認。その後は、認定基準見直しが議論となっている。しかし、「見解」では、判決での賠償額が今の補償協定の慰謝料より低額であることをもって「二重基準」ではないとした。さらに、最高裁判決を「医学が一般に認めるところでなく不合理」と結論づけている。
もうひとつのポイントは、補償対象が広がった場合、「チッソの破たんは確実」と位置づけ、分社化に触れている点だ。その上で、仮に国、県が代わって補償負担を担うとしても、同判決に従えば「責任は4分の1を超えることはない」とうたっている。
関西訴訟最高裁判決の基準を受け入れた場合には、補償水準が下がると言わんばかりの内容で、水俣病国賠訴訟の原告団長で水俣病不知火患者会会長の大石利生さんは「分社化は、同社に現在残っている補償負担だけを負わせ、それ以上の補償は打ち切ろうとする考えに思える。現在、次々に提訴されている国賠訴訟への布石ともとれる」と批判。「『被害者より企業を守ろう』という考えは昔と変わっていない。先日の国会決議もパフォーマンスに過ぎなかったということだ」と怒りを込めた。
 
◇自民小委見解全文
[1]現状認識
水俣病問題をめぐっては、平成16(04)年10月に水俣病関西訴訟最高裁判決が出されて以降、公健法(公害健康被害補償法)の認定申請を行う人々が急増して約3700人に達し、また、チッソ及び国・熊本県を相手に訴訟が提起され原告が1000人を超えるなど、紛争が再発している。この間、熊本県及び鹿児島県の認定審査会の審査業務がストップするほか、環境省が設置した懇談会において公健法の認定基準を緩和すべきとの議論が蒸し返されるなど、混乱収束の見込みは立っていない。
[2]平成7(95)年の政治解決の意義について
水俣病をめぐる紛争は、平成7年の政治解決でほぼ終息をみた。この政治解決では、医学的にはボーダーライン層に位置づけられ公健法の基準による認定には至らない人々について、チッソによる一時金支払い、国・県による医療費自己負担分等の支給による救済を行うとともに、損なわれた地域社会のきずなの修復を図ることを内容とするものであった。政治解決においては、国・県・市町村が広範な広報活動を行い、申請を促す中で、実に約1万4000人の申請があり、そのうち約1万2000人(保健手帳対象者も含む)が対象となった。
この政治解決は、政治主導の下に、関係者が苦渋の決断をすることにより合意を形成したものであり、その経緯と成果は重く受け止めなければならない。したがって、今回の混乱を収束するに当たっても、この政治解決の考え方に即したものとすることが不可欠である。
[3]認定基準をめぐる議論について
(1)公健法の認定基準は水俣病と判断される者を判別するための医学的基準であり、認定を受けた人々に対しては、昭和48年(73年)の補償協定に基づき1600万円〜1800万円の一時金とその他の継続給付がチッソから支払われている。
最高裁判決以降、この公健法の認定基準と裁判の事実認定が異なることをもって「二重基準」と称して、公健法の認定基準を緩和すべきとの議論がなされている。しかしながら、最高裁判決を含む諸判決は、各原告と公健法認定患者とを明確に区別し、これを前提に補償協定よりも低い金額を認容しているものであり、認定基準緩和の議論はこうした判決をも無視した議論である。また、そもそもこうした議論は医学が一般に認めるところではなく、医学的に不合理ということができ、平成7年の政治解決の考え方にも合致しない。
(2)認定基準の緩和は、医学的にボーダーラインとされる層を「有機水銀の影響あり」と認定することであり、このことは、こうした人々のすべてについて、チッソの排水との因果関係を認めよという主張である。それを前提とすれば、これらの人々が訴訟を提起した場合、裁判所はチッソに対して損害賠償金を支払えとの判決を出すことになるのは必至である。また、公健法の認定を受けた者に対して適用すると明記している上記補償協定の適用を求められることにもつながる。
この場合、チッソが新たに支払いを求められる損害賠償金は、数千億円にものぼると試算され、従来から多額の債務を抱えるチッソの破たんは確実となる。チッソが破たんした場合、現存認定患者に対する医療費や継続給付の支給(すべてチッソ負担)がストップすることになる。さらに、チッソが破たんすれば、水俣地域の再生に向けた様々な取り組みがとん挫することになる。
(3)なお、最高裁判決が国・熊本県の責任を認めたことをもって、チッソの補償金の支払いの原資を国や熊本県が肩代わりすればよいとの安易な議論がなされることも考えられる。しかしながら、最高裁判決が国・熊本県の責任を認めたことにのみ目を奪われるべきではなく、同じ判決で、その責任の範囲を一部に限定していることを想起するべきである。すなわち、国・熊本県は、損害賠償額の4分の1についてのみチッソと連帯して責任を負うとされているのであって、残りの4分の3に関しては何ら法的に責任を負わない。したがって、チッソが破たんした場合、4分の1の部分はともかく、これを超えて国や熊本県が肩代わりするという選択肢はあり得ない。
[4]今後の対策について
このような状況の下で重要なことは、認定基準の緩和ではなく、まず第一に、今回認定申請をしている人々の状況を医学的に的確に判断することであり、第二に、平成7年の政治解決を踏まえて適切な措置を講じるとともに、第三に、チッソが引き続き公健法認定患者の補償を滞りなく行えるようにするなどその責任を果たすことができるようにすることである。具体的には以下のことが必要である。
(1)公健法の認定を求める人々については、県の認定審査会の再開を求めるほか、国に認定審査会を設けることを含め、現行認定基準による審査を速やかに進めること。
(2)ボーダーライン層の人々に対して、保健手帳による医療費救済をきちんと実施すること。
(3)以上のほか、チッソが収益力を上げつつ、患者補償を滞りなく行い、その責任を果たすことができるための環境づくりをすること。当面の課題は、チッソの収益から可能な限り県債の償還、患者への補償給付を、税の支払いに優先して行えるようにすることである。また、次に、チッソが更に収益力を増し、一日も早く約1500億円の債務の履行が可能となり、通常の経済活動を営む中で地域社会に貢献することができるよう、補償金支払いと事業運営とを別会社とすることも検討することが必要である。
[5]環境省の取り組みについて
なお、国では、環境大臣が設置した懇談会において、将来に向けて水俣病の教訓をいかに生かすかという未来志向の議論ではなく、財源と給付の一体的検討なしに認定基準の緩和の議論がなされていると仄聞(そくぶん)する。水俣病対策は、平成7年の政治解決を含むこれまでの経過を重く受け止め、現実的な解決を導くことができる国としての確固たる方針があってこそ進めることができるものである。政府に対しては、そうした方針の樹立が強く求められる。

 
 

被害救済チーム設置 自公両党 政治決着模索へ(熊本日日新聞 2006.5.13)
 
自民、公明両党は十二日、水俣病被害者の「全面救済」を目指して「水俣病問題に関するプロジェクトチーム(PT)」を設置することを決めた。一九九五(平成七)年の自社さ連立政権下で約一万二千人の未認定被害者に一時金などを支給した政府解決策に次ぎ、自公政権下で新たな政治決着を模索する。同日、東京・永田町で自民党水俣問題小委員会の松岡利勝委員長(衆院熊本3区)と、公明党水俣病問題小委員会の木庭健太郎委員長(参院比例代表)が会談。同PT設置について合意した。
メンバーは松岡、木庭両委員長のほか、自公の環境部会長や熊本、鹿児島両県の関係国会議員、環境、財務、厚生労働、経済産業各省の担当者らで構成する。松岡氏が座長に就く見通し。来週中に初会合を開き、水俣病問題の現状分析や被害者救済策の内容について協議する。
設置理由について、松岡氏は「五月一日の公式確認五十年に合わせ、国会決議や首相談話を内外に表明した。ただ、今でも多くの被害者を完全に救済できず、与党として政治の責任を重く受け止めたため」と説明。九五年の政府解決策と二〇〇四年の関西訴訟最高裁判決を踏まえ、患者救済を完遂するとしている。
四月末、自民小委はチッソを患者補償や公的債務返済を担う会社と、事業運営会社に分ける「分社化」を中心とする対策案を表明。公明小委は医療費全額や毎月一定額の療養手当を支給する独自の被害者救済案をまとめた。PTでは自公両案を前提とした議論が進むとみられる。
最高裁判決は複数症状がなければ水俣病と認めない行政の認定基準と異なり、一つの症状でも損害賠償の対象となるとの判断を提示。これを機に約三千八百人が新たに認定を申請、うち千人以上が損害賠償請求訴訟を起こした。ただ、政府は認定基準の見直しを拒否し続けている。

水俣病:患者ら認定見直しを要望/新潟(毎日新聞 2006.4.26)
 
新潟水俣病の患者や家族による「新潟水俣病被害者の会」と支援団体「新潟水俣病共闘会議」は25日、県庁に泉田裕彦知事を訪ね、患者認定制度の見直しを国に働きかけるよう要望した。
04年10月の水俣病関西訴訟最高裁判決で、国の認定基準に満たないケースでも患者と認定する判断が示された一方、環境省は現在も認定基準を見直さない方針を示している。両団体は要望書で、司法と行政の判断の食い違いを問題視し、「国の判断は認定申請した患者の期待を裏切るものだ」と主張した。
また県が実施する患者の認定審査について、「最高裁判決に沿って審査されると期待している」と要望した。

水俣病:公式確認50年 未認定患者の救済訴え声明−−日本精神神経学会(毎日新聞 2006.5.14)
 
日本精神神経学会(山内俊雄理事長)は12日、学会を開いた福岡市で記者会見し、水俣病公式確認50年を機に声明文を出した。98年に国の水俣病認定基準の妥当性を詳細に分析したうえで「科学的に誤り」とする見解を出しており、改めて基準見直しを求め、未認定患者の救済を訴えている。
声明で、国の認定基準について「医学的判断条件に値しない、患者を大幅に切り捨てるための判断条件」と指摘している。環境省熊本県に「本来の法的・行政的対応に立ち返られることを要望する」として、認定基準の見直しや不知火海沿岸住民の健康調査、未認定患者の救済の必要性を訴えた。また「この混乱は医学界から生じた。長年にわたり看過してきたことに関して痛切なる遺憾の意を表明する」とした。水俣病の認定基準を巡っては04年、関西訴訟最高裁判決が現行より幅広い基準を示した大阪高裁判決を追認した。

衆院調査局 議員向け多角的に解説 初めて水俣病資料作成(熊本日日新聞 2006.5.20)
 
この中で、大半の識者が現行の認定基準より幅広い救済条件を示した関西訴訟最高裁判決後も基準見直しを拒む環境省の姿勢に疑問や批判を示し、「基準を見直すべきだ」「補償協定も作り直し、被害の程度に応じた補償給付をすべきだ」などと提言している。
一方、元県認定審査会委員の荒木名誉教授は現行基準の正当性を強調。しかし、「医学的に診断困難な症例は、行政的に水俣病と認定してもよかったのではないか」と振り返り、「ボーダーライン層(感覚障害のみ)は準認定者と呼んで特別医療をもって救済すべきだ」としている。

 
 
認定義務付け訴訟

認定制度正面から問う 現行基準を批判 溝口訴訟(熊本日日新聞 2006.5.17)
 
弁護団の東俊裕弁護士は「現行の認定基準は、医学的にも法的にも明らかに違法だ。母親は関西訴訟の基準でも水俣病に相当するし、公害健康被害救済法は損害賠償請求訴訟である関西訴訟より救済範囲が広くあるべきなので、行政認定されて当然だ」とした上で、「この準備書面は、認定制度をめぐって闘った先人たちの功績の集大成といえる」と話す。
支援を続ける熊本学園社会福祉学部の花田昌宣教授(社会政策学)も「義務付け訴訟を加えたことによって、認定制度を真正面から問う裁判になった。勝てば、行政は認定制度を根本から変えざるを得なくなる」と意気込む。
一方、原告側はこの準備書面を法廷外でも活用する考え。環境相の私的諮問機関「水俣病問題に係る懇談会」は、認定基準の見直しを拒む環境省と対立が続いている。原告側は「認定制度と認定基準の誤りをさらに正しく理解してほしい」と、委員全員に送る。
溝口訴訟の次の予定は六月十三日。口頭弁論ではなく、裁判の進め方を整理するための進行協議が開かれる。公式確認から五十年を迎えてもなお認定制度をめぐる混迷が続く中、この訴訟の問う意味は次第に大きくなっている。

原告第35準備書面