診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業

arcturus2006-06-01

 

福島県立大野病院事件で日医の考えを説明(日医白クマ通信 No.354 2006.3.23)
 
今後の対応については、寺岡副会長が、「当面の対応としては、『診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業』を全国規模に広げ、事例届出の窓口の一元化を図るべき」としたほか、藤村常任理事は、会内に委員会を立ち上げ、医師法第21条の廃止の是非を含めた検討を4月にも開始することを明らかにした。


とりあえずメモ。
 
 http://d.hatena.ne.jp/arcturus/20051011
 http://d.hatena.ne.jp/arcturus/20060323

【外科系連合学会から】医療関連死を調査分析する中立的第三者機関を視野に診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業が始まる(日経 2005.6.29)
 
「異状死の問題」が大きくクローズアップされたのは、2000年に発生した東京都の広尾病院薬剤取り違え事件がきっかけ。事件では、異状死の届け出を怠ったとして、事件当時の院長、副院長らが、東京地検医師法違反などの疑いで書類送検された。これを機に、異状死については、日本法医学会が1994年にガイドラインを発表、以下、日本外科学会が2001年に、日本内科学会会告が2002年に出された。2004年4月には、日本内科学会、日本外科学会、日本法医学会、日本病理学会による共同声明が出され議論が集約されていった。同年9月には4学会の共同声明に日本医学会加盟の15学会が参画し、計19学会による共同声明が出されるに至った。声明の中では、これまでの診療行為に関連した死亡事故を異状死として警察に届ける制度から、中立的第三者機関を設立し、「医療関連死」としてそこに届け出て、調査・検証する方向へ議論が進展した。
厚労省はこれに応じる形で、2005年度から「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を開始することになったものだ。
モデル事業(概要参照)では、医療機関から医療関連死の調査依頼を受け付け、臨床医、法医学者あるいは病理学者を動員した解剖を実施し、その上に専門医による事案調査も実施して、専門的、学際的なメンバーで因果関係を検証するとともに、再発防止策を総合的に検討する。モデル事業は5年間で、初年度の予算は1億円となっている。中立的第三者機関の設立を視野に入れた事業であり、その成果が注目される。
■概要は以下の通り。
・モデル事業の地域:札幌市、茨城県、東京都、神奈川県、新潟県、愛知県、大阪府兵庫県、福岡県など。
・モデル地域に所在する医療機関は、患者遺族から解剖の承諾を得て、当該地域の調査受付機関(仮称)に調査を依頼する。
・調査受付機関では、依頼された事例が事業の対象となる場合は、法医学、病理学、臨床の専門医の三者による解剖を実施し解剖結果報告書を作成すると同時に、臨床の専門家による、診療録等の調査や面接等の因果関係の調査を行う。
・調査受付機関は、調査資料や結果をもとに個別事案についての分析・評価を行い、調査分析結果報告書案を作成して、中央に設けられた評価委員会に報告する。
・中央の評価委員会においては、モデル地域から提出された個別事例について最終的な評価を行い、評価結果報告書を作成するとともに、各モデル地域から集積された事例をもとに予防・改善策を検討する。
・個別事例については、その調査結果を依頼先の医療機関及び患者遺族に適切な方法で報告する。
・運営委員会では、本モデル事業の運営方法等の検討を行う。

診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業厚労省

診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業(日本内科学会)

意見書「医療事故と異状死体届出義務について」(医療問題弁護団 2002.4.12)

茨城県医療問題中立処理委員会設置のご報告(2006.3.24)
 
医事紛争の中には患者側の誤解により発生するものもあります。現在、医事紛争が発生した場合、会員の要請により医師会内に医事紛争処理委員会が開かれていますが、外部から見れば、医療側に偏っているとの誤解を受ける可能性があります。特に、患者側にとっては、医療側に過失ありとの裁定がなされた場合でも満足できず、ましてや過失がないとの裁定の場合は、度重なる要求も起きています。まず、紛争を解決するために、患者側・医療側双方が胸襟を開いて真摯に話し合い、互いの誤解を解くことができる場(中立委員会)を設けることが必要です。
この度、茨城県医師会が中心となり、全国に先駆けて「茨城県医療問題中立処理委員会」を立ち上げることとなりました。会員の皆様にも、委員会の設立の意義をご理解していただき、なお一層のご協力をお願い申し上げます。

 
 

正式の第3者機関という事になると、医療費削減という重い政治課題が圧し掛かっているだけに、政治的なキナ臭さは避けて通れないと考えています。
 
公式の第3者調査機関への憂鬱(新小児科医のつぶやき)

このモデル事業であるが、もはや、誰もがうまくいくとは思っていない。それは、実施主体が厚生労働省であり、縦割り行政を乗り切れない(検察庁の思惑とは別で既存の警察マタ−に踏み込めない)ということと、一つの事業に、解剖実施だけではなく、ADRや、医師紹介システム、調査機関など、一挙に色んなものを取り入れすぎたために、二進も三進も行かなくなったことが原因で、もはやこの事業の先行きは非常に暗いのである。そのお偉いさんに「刑事での解剖実施機関は司法解剖ですが、民事(ADR)の解剖実施はどこで解剖するんですか?」と聞いたら、「確かにないな」と話していた。
ここは一つ、厚生労働省だけに頼るのではなく、省庁横断的にモデル事業を設計しなおし、解剖実施機関(法医解剖実施機関)、調査機関、ADR機関の3つの機関に分けて、それぞれで機動力をよくした状態で事業をやり直す必要があるだろう。そうなれば、今の時期は大きなチャンスだ。
 
検察庁のお偉方の話(法医学者の悩み事)

その先生によれば、このモデル事業は動機が不純だったとのこと。厚生労働省としては、医療事故を内部処理したい(多くの医療過誤は医療行政の不備の結果であることがばれてほしくないのだろう)がために始めたようで、また医師法厚生労働省管轄の法律ということで、簡単に医師法21条(異状死届出義務違反)改正ができると考えていたらしい(そこが、法律に疎い医学部出身の厚生役人の限界らしい)。そこで、その先生が、知り合いの警察庁の役人に問い合わせたところ、医師法21条改正が現在の状況でできる筈もないと即座にいわれたそうだ。その先生としては、その段階で、このモデル事業が、東京都の行政解剖と同様、警察の下請け事業になることが予見できていたらしい。確かに、その予想通り、今の段階では、モデル事業で調査された全ての事例が、何らかの方法で警察に通報された上で調査されているのは事実だ。このことは、報道では明らかになっていないし、多くの臨床医には事実が知らされていない(特に東京が警察には届け出ていないとみせかけているようで酷いらしい)ようだ。そのなことで、この先、このモデル事業はどうなっていくんだろうか?
 
診療に関連した死亡事例をどう取り扱うかに関して(法医学者の悩み事)

それにしても、何故、愛知でこんな結果が出るのか?それは愛知に限定的な独特な風土があるためだ。愛知では、弁護士と警察、医師会の間で、長い間培われた信頼関係があり、とりあえずは、警察が病理解剖と事故調査委員会の結果を待ってくれる紳士協定ができているようである。他の地域でこれを真似ると、刑事訴追続出の可能性もある。愛知でのモデル事業の成果は他の地域においては参考にならないだろう。
 
医療関連死モデル事業(法医学者の悩み事)