医療手帳

arcturus2006-06-02

 

県議会 国に医療手帳再開要請へ 拒否なら認定業務返上も(熊本日日新聞 2006.5.30)
 
県議会は二十九日、水俣病対策特別委員会(中原隆博委員長)を開き、認定申請者が急増する水俣病問題の対応策として、県が新たに検討している一時金を含む医療手帳交付の再開などを求める国への要請書をまとめた。国が要請に応じない場合、法定受託事務として県が国に代わって実施している認定審査業務の返上にも踏み込んだ。県議会は月内にも、県と合同で環境省など関係省庁に要請する。県関係国会議員や自民、公明の与党プロジェクトチームにも協力を求めていく。
要請書は(1)一九九五年の政府解決策と同様の手当(医療費や療養手当)と一時金(チッソ負担の二百六十万円)を含む救済策の早期実現(2)国の認定基準(昭和五十二年判断条件)の妥当性に関する説明(3)認定審査会再開への具体的助言(4)検診医確保などが柱。医療手帳については判定方法などを含め、政府解決策の枠組みを踏襲する考えだ。村田信一・県環境生活部長は、認定業務返上については「申請者への不利益につながりかねない」と慎重姿勢を見せたものの、要請は「国を動かすためには現段階で考え得る最大限の動きだと思う」と述べ、県としても医療手帳再開を含む救済策の実現を目指す考えを表明した。
委員会終了後、中原委員長は「こう着状態を打破するには、地元の考えと具体案をしっかり示し、政治レベルの解決を模索していくしかない」と語った。
現在、水俣病被害者に対する救済策は、公害健康被害補償法に基づく認定制度と、〇四年十月の水俣病関西訴訟の最高裁判決を受け、昨年十月に再開した新保健手帳の二本柱。県内の認定申請者は現在、二千五百五十四人に上っているが、新保健手帳は医療費支給に限定され、認定申請の取り下げにはつながっておらず、認定審査会も委員不在で休止状態に陥っている。

患者団体 県議会の方針に期待と疑問の声(熊本日日新聞 2006.5.30)
 
県と県議会が一時金を含む医療手帳の再開を政府・与党に求める方針を確認した二十九日、患者団体の間では期待と疑問の声が交錯した。
一昨年の関西訴訟最高裁判決後の認定申請者二百十人でつくる水俣病被害者芦北の会の村上喜治会長(56)は「県と県議会の決断はありがたい。国も政治家も実現に向けて尽力してほしい」と歓迎。「私たちよりも先に立ち上がり、長い闘いの末に“苦渋の選択”で政府解決策を受け入れた人たちのことを考えれば、医療手帳再開は私たちの最大限の要求だ」と打ち明ける。
認定申請者千七百人を抱える水俣病出水の会の尾上利夫会長(68)も「政府解決策と同じ内容なら、大半は受け入れることになるのではないか」とみる。
一九九五年の政府解決策に応じ約三百人が医療手帳を受けている未認定患者団体、水俣病患者連合の佐々木清登会長(76)も「全面救済につながる一歩。国や国会議員は地元の要望を重く受けとめてもらいたい」と、実現への期待をにじませた。
ただ、新たな国家賠償請求訴訟を検討している水俣病被害者互助会(百十人)事務局の谷洋一さん(57)は「当面の救済策としては評価できる」としながらも、「認定申請や裁判の取り下げを条件とするものであってはならない。水俣病の病像や認定・補償制度の見直し、被害の全容解明にも取り組んでもらいたい」と注文する。
不信感をあらわにするのは、千人以上が既に国賠訴訟に踏み切っている水俣病不知火患者会(千六百六十人)。大石利生会長(66)は「医療手帳の交付を求めた当初の要望が聞き入れられなかったから司法救済を選んだのに、遅きに失した。実現性にも疑問があり、不作為責任を回避するための行動としか思えない」と批判する。
園田昭人弁護団長(51)も「政府解決策は行政責任がないのが前提だったが、それは最高裁判決で覆った。行政責任を踏まえた制度とするのが筋で、場当たり的な施策の延長だ。対象者を水俣病と認めるのかどうかという問題も残る」と指摘する。

 
最高裁判決を受けて再開された新保険手帳は*1熊本県では5月末までに2271人に交付、うち認定申請を取り下げたのは217人。鹿児島県では4月末までに525人に交付されていて、そのうち53人が認定申請を取り下げています。非該当者は熊本県で316人、鹿児島県はわかりません。

ノーモア水俣病:50年の証言/12 74年を問う集い/下/熊本(毎日新聞 2006.5.16)
 
関西訴訟最高裁判決で日本には曲がりなりにも司法が生きていたと思いました。しかし、行政は完全に存在意義がない。この国は法治国家ではありません。
最高裁判決は被害を拡大させたのは国、県の責任と断じました。その責めを負うものとして、国は被害者を一人残らず見つけ出さなければならなかった。環境省は「最高裁は認定基準を変えろとは言っていない」と言いますが間違い。大阪高裁に立ち返って判決文をよく読むと、(昭和)52年の判断条件は1600〜1800万円の補償にふさわしいと思われる人で、全メチル水銀中毒患者の一部と言っている。
国は水俣病を防ぐために法律を使わなかった。公害健康被害補償法はあるが、認定基準があるために患者が門前払いを食っている。そして最高裁判決。それでも国は認定基準は変えないと言って、法律を踏みにじっています。(宮沢信雄さん)