arcturus2006-06-28

 
どうせいつかは天の車が
土に踏み敷く身と思え
 

控訴。
 

薬害C型肝炎訴訟、国側が控訴(朝日 2006.6.28)
 
血液製剤フィブリノゲン」などを投与されてC型肝炎ウイルスに感染したとして、患者13人が国と製薬会社に損害賠償を求めた薬害C型肝炎訴訟で、国は28日、5人に国家賠償を命じた21日の大阪地裁判決を不服として大阪高裁に控訴した。
地裁判決は、青森県での集団感染報告をもとに87年4月以降はフィブリノゲンの安全性を確認できない状態だったと指摘、規制権限を行使しなかったのは違法とした。これに対して国は、(1)産科を中心に当時、臨床現場で止血効果の有効性が認識されていたのは明らか(2)判決が必要性を指摘した製造承認にあたっての比較臨床試験は、大量出血という病態から実施は困難――などを理由に控訴した。
控訴について、地裁判決で国の賠償が認められた武田せい子さんは「国が責任を認めない限り、患者の救済は先に進まない。私たちの命を軽く見ている」と語った。8月に判決を迎える九州訴訟原告で全国原告団代表の山口美智子さんは「(判決後)厚労相に面談を求めてきたが、患者の話も聞かずに控訴したのは信じられない。財政難を理由に肝炎対策から逃げているとしか思えない」と批判した。

 
 

薬害C型肝炎:大阪訴訟 判決要旨(毎日新聞 2006.6.22)
 
薬害C型肝炎訴訟で国と製薬会社に賠償を命じた21日の大阪地裁判決の要旨は次の通り。
【64年の非加熱フィブリノゲン製剤の製造承認について】
厚生大臣フィブリノゲン製剤の製造承認をしたことが違法とはいえない。旧ミドリ十字にも安全性確保に関する過失を認めることはできない。
【78年までの後天性低フィブリノゲン血症の適応除外について】
後天性低フィブリノゲン血症の適応除外をしなかった厚生大臣の規制権限不行使が著しく不合理であるとまではいえないから、いまだ違法とはいえない。旧ミドリ十字にも安全性確保に関する過失はない。
【85年8月の不活化処理方法の変更】
C型肝炎(当時の非A非B型肝炎)の危険性や播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC)に関する知見がかなり集積されていた上、医療機器の進歩や医療技術の向上等により、産科領域においてフィブリノゲン製剤を必要とする症例は相当減少し、フィブリノゲンの有効性が疑問視される状況になりつつあった。
ミドリ十字は、85年8月、フィブリノゲン製剤の不活化処理方法について、約20年間にわたって行ってきた紫外線照射及びBPL併用処理から、ほとんど不活化効果がなかった紫外線照射等に変更したことにより、C型肝炎(当時の非A非B型肝炎)感染の危険性を一層高めたから、旧ミドリ十字には、安全性確保義務に違反した過失がある。しかし、厚生大臣は旧ミドリ十字の不活化処理方法の変更を知っていたと認めるに足りる証拠はないから、その時点で、後天性低フィブリノゲン血症の適応除外をしなかった規制権限不行使が著しく不合理であるとはいえず、違法とはいえない。
【87年4月の非加熱フィブリノゲン製剤の規制権限不行使と加熱フィブリノゲン製剤の製造承認について】
肝炎の危険性やDICに関する知見がかなり明確になり、血液用剤再評価調査会が非加熱フィブリノゲン製剤の有効性、安全性、有用性に強い疑問を抱いていた中で、当時の医学的、薬学的知見に基づく有効性の審査方法の下では、フィブリノゲン製剤の有効性が確認できない状況にあった。当時、非加熱製剤について、青森県での肝炎集団発生事例の報告等があり、今後も同種感染事例の発生する危険性が高い状況にあった。このような状況下にありながら、厚生大臣は、非加熱フィブリノゲン製剤について、後天性低フィブリノゲン血症の適応除外をしなかったから、規制権限不行使は著しく不合理であり違法である。
厚生大臣は乾燥加熱処理によってはウイルスの不活化は十分でなく、安全性が何ら確保されていないにもかかわらず、十分な調査、検討を行わず、当初から非加熱フィブリノゲン製剤に代えて加熱フィブリノゲン製剤の製造承認をするという結論ありきの方針の下に、申請からわずか10日で、有効性、安全性、有用性を実質的に十分に確認しないまま加熱フィブリノゲン製剤を製造承認した。厚生大臣の加熱製剤の製造承認は、安全性確保に関する認識や配慮に著しく欠けており、違法である。
ミドリ十字も、非加熱及び加熱フィブリノゲン製剤の製造、販売につき、安全性確保義務に違反した過失がある。
【原告9人の損害について】
フィブリノゲン製剤の違法な投与により、何らの落ち度がないにもかかわらず、C型肝炎ウイルスに感染し、その結果、深刻な被害を受けるに至ったものである。その損害は、C型肝炎の現在の病態と予後等から、無症候性キャリアの原告につき1200万円、慢性肝炎の原告につき3000万円を基礎損害額とし、病態の程度、これまでのインターフェロン治療歴、その他、原告ごとの個別事情を考慮して算定すると、各原告につき、1320万円から3630万円(弁護士費用を含む)、合計2億5630万円及び遅延損害金となる。
【請求棄却の原告4人について】
フィブリノゲン製剤の後天性低フィブリノゲン血症の適応除外に関し、その余の原告ら3人の旧ミドリ十字など2社と厚生大臣に対する損害賠償請求を認めることはできない。
第9因子複合体製剤(クリスマシン)について、後天性血液凝固第9因子欠乏症の適応除外をせず、これを製造承認し、その後の規制権限を行使しなかった厚生大臣の行為に違法はない。旧ミドリ十字の安全性確保に関する過失はない。


閣議後記者会見概要(H18.06.22(木)16:50〜17:00 省内会見場)

クローズアップ2006:薬害C型肝炎訴訟判決 国に抜本救済迫る(毎日新聞 2006.6.22)
 
今回、C型肝炎訴訟の原告側は主張を統一した。証人申請した原告、被告双方の専門家計16人の尋問を各地裁に分散させ、証言内容を援用し合う態勢を取った。このため薬害訴訟としては、提訴から3年8カ月という異例の短期間での判決となった。
肝炎への国の対応は大きく遅れている。緊急総合対策が始まったのは02年度。早期発見を目的とした健康診断の実施や治療の研究・開発などに毎年約60億円を投じる。だが、肝臓がんによる死者の7〜8割がC型肝炎感染者ともいわれる中、月に数万〜数十万円もかかるとされる治療への公費助成は進んでいない。
このため、原告や患者団体は治療費軽減のため、これまでに慢性肝炎や肝硬変を、特定疾患(難病)や身体障害者手帳が交付される対象に指定するよう要望している。一方、国などから損害賠償を受けるには、裁判を起こし勝訴か和解することが前提になり、因果関係の証明ができず原告になれない患者が多いという実情もある。片平洌彦(きよひこ)・東洋大教授(保健福祉論)は「特別立法による救済が必要」と指摘する。

政府、B型肝炎の救済策検討へ C型は対策先送り(朝日新聞 2006.6.22)
 
C型肝炎訴訟の大阪地裁判決について、安倍官房長官は21日の記者会見で、「一部敗訴と聞いている。関係省庁において判決内容を十分検討したうえで決定する」と述べた。小泉首相も同日夕、「よく調査していただきたい」と記者団に述べ、関係省庁の検討を促した。政府高官は「判決をよく見て検討するが、上級審の判断を仰ぐことになるだろう」と述べ、控訴の方向で対応を検討する考えを明らかにした。
政府は、フィブリノゲンなどの血液製剤による感染被害をめぐっては、大阪地裁判決について控訴する方向で検討していることから、議論を先送りする方向だ。一方で、集団予防接種によるB型肝炎訴訟で最高裁が16日、国の責任を認める司法判断をしたことに関しては、政府は感染者と患者の支援のあり方について具体的な検討に入った。医療費や検査費用などの公費助成の是非が主な課題となる。ただ、感染者・患者の多さから経済的な支援策には財政面で限界があるとの見方が強く、感染原因や症状などについても分析を進め、どの範囲までを救済対象とするか慎重に見極めていく。

薬害C型肝炎訴訟、5人の追加提訴を検討(朝日新聞 2006.6.27)
 
弁護団によると、窓口には22〜24日だけで全国から電話やメールで計1495件の相談があった。このうち5人について、判決が製薬会社の責任を認めた85年8月以降に血液製剤フィブリノゲン」を投与されていたことがカルテなどから確認でき、提訴は可能と判断したという。

薬害エイズ「無罪判決」、どうしてですか? ISBN:4121500318』より

85年5月に厚生省(現厚生労働省)が、血友病患者のHIV感染を公に認めてから4年。大阪と東京で相次いで血友病患者が薬害エイズ訴訟を起こした。
血友病患者同士の個人的なつながりを通じて原告を募っていた東京訴訟では、裁判を起こすにあたって血友病専門医との関係で重大な事件が起こっていた。非加熱濃縮製剤の投薬証明書の作成である。
投薬証明とはひとりひとりの血友病患者がいつ、どの企業の非加熱濃縮製剤を、どれくらい投与していたか、ということを証明する文書である。病院での投与であれば投与時期も特定できるが、自己注射の場合には処方した非加熱濃縮製剤の量と時期がわかる。被告にされる製薬会社の立場からすれば、自社製品がいつだれに投与されていたかという問題は、ひとりひとりの血友病患者との関係で被告になるかならないかという重要な問題だ。原告になろうとする者は、これを血友病専門医に書いてもらわなければならない。
ところが、血友病患者やその家族のなかには、血友病専門医を強く恨んでいる者が少なくない。元気なときの姿からは想像できないほどに形相が変わり果てて、苦しみながら死んでいった息子や夫のことが、いつも頭から離れない遺族にしてみれば、血友病専門医たちは殺しても飽き足らない人たちだ。どうして非加熱濃縮製剤の投与についてもっと慎重になってくれなかったのか。危険性が高まっているさなかに、どうして安全性ばかり強調して、不安を訴える血友病患者に予防投与・大量投与を勧め続けたのか。そのくせ発病した途端、入院させてくれなくなった、等々。血友病専門医を被告にして訴えたいという希望は、原告の間に強くあった。
血友病専門医たちはHIV感染した血友病患者やその家族に自分たちが恨まれていることを十分承知していた。投薬証明を書いたら国や製薬会社だけでなく自分たちも被告として訴えられるのではないか。血友病専門医たちはそのことに強い不安を抱いていた。自分が訴えられるかもしれないというのに裁判を起こすことに協力などできない。もっともな理屈である。
東京訴訟原告団弁護団は、血友病専門医を被告にしないという方針を明確にした。被害者のなかからは猛烈な反発や批判があった。方針変更を迫る要求は訴訟を始めてからもずっと続いた。
しかし、原告団弁護団は方針を変えなかった。安部氏以外の血友病専門医に責任がないと考えたからではない。ひとりの被害者について担当の血友病専門医を被告にすることを認めたら、間違いなく続々と同様の希望者が出てくる。そうなると、訴訟はいつ抜けるかわからない泥沼だ。その間に被害者たちはまともな治療を受けられないまま次々にエイズを発症して死んでいく。そんな自滅の道は避けなければならない。それに被害者が提訴するために投薬証明はどうしても必要だった。
血友病患者たちは、差別と偏見のなかで、まともな治療も受けられないまま苦しんで死んでいくのはいやだ、という思いで提訴に立ち上がろうとしていた。このままでは死ねない、という文字通り必死の切羽詰った思いだった。そのことを訴えても血友病専門医たちの心はなかなか動かなかった。血友病専門医を被告として訴えないということを明記した念書を差し入れることによって、初めて渋々ながら協力してくれるようになった。
安部氏が主宰していた血友病患者の会「京英会」(血友病患者の会はほとんどが担当医の氏名の一文字を会の名前に入れている。この点だけでも如何に医師中心の会だったかということが想像できる。京英会の“英”は安部英の一文字である)の患者は都内や近隣在住者が多いはずなのだが、96年3月、薬害エイズ訴訟の和解が成立するまで、ほとんど東京訴訟の原告に加わってこなかった。
血友病専門医の多くが東京訴訟に協力的になったのは、和解成立後からのことだった。


専門家の責任 血友病専門医たちの大罪(弁護士・清水勉)


日本のエイズ治療は、血友病専門医に見放された患者たちが東京大学医科学研究所に専門的に取り組むようにお願いしたところから始まり、薬害エイズ訴訟の和解で国の責任で取り組むことが約束されたことによって、全国的な治療体制をつくる動きができました。
病者に長期に渡って裁判を強い続けるのは、そうしなければ行政は動かないというのでは、あまりに過酷です。