情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討会

 
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/05032201/003.htm
報告書よみました。
 

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(3)子どものこころの問題に関わる提言等:
⑦「広汎性発達障害では対人認知機能に問題がある事などが考えられる」:
広汎性発達障害については、ア:大脳辺縁系を中心とした脳の成熟に問題があって、社会適応の基盤である対人認知機能に障害があるということ、イ:共感性に問題があり、また他者に対する意識の裏側に存在する自己意識が希薄であることなどが指摘されている。

⑧「扁桃体等の脳領域の機能不全は攻撃性を高める可能性があると考えられ、この関係に関する脳研究が重要である」:
てんかん発作時の脳活動と行動を見ると、扁桃体神経細胞に過剰放電(発作)が起きると攻撃性が増しやすいということが報告されている。また、そのような発作を治療すると爆発性が著しく軽減されるという報告もある。さらに、海馬の近辺に抑制性伝達物質受容体の機能を増強するベンゾジアゼピン受容体が豊富にあり、その機能不全が「キレる」という現象と繋がりがあるとの説がある。扁桃体の機能不全は攻撃性を高める可能性があるとの説もある。ベンゾジアゼピンベンゾジアゼピン受容体の抑制作用を強める抗不安薬として使用されるが、その使用も含めて扁桃体、海馬等の脳領域と攻撃性との関係についてさらなる脳科学研究が必要と思われる。

⑨「こころの障害の克服にはゲノム生物学的研究も重要である」:
精神医学的治療を要するこころの障害(例えば「統合失調症」等)は、遺伝要因と環境要因が複雑に絡み合って発症すると考えられている。ゲノム生物学の最新の知見によれば、特定の遺伝子の機能は、出生早期の環境(例えば、ストレスの多い環境)により変化すると言われている。遺伝子の機能変化は、当然ながら、生命を持つ生物の行動にも影響を及ぼすと考えられる。このように、遺伝要因と環境要因は互いに影響し合っており、現在、その詳細が明らかにされようとしているところである。
また、昨今、「どの遺伝子が、どのようなこころの障害の、どの認知機能に関係しているのか」といった研究が急速に進んでいる。しかし、こころや情動の動きを遺伝子の機能から理解するのは容易なことではない。それは、非常に多くの遺伝子が関与し、また、互いに影響しあっており、現在のゲノム生物学がそういった複雑な現象を克服できる水準には到達していないと思われるためである。しかし、日々進歩するゲノム生物学の成果を応用し、こころの障害を克服するために、こころの障害の早期発見と早期治療の道筋をつけていくことが重要である。

(4)その他:
⑩「発達障害児童虐待に関して教育現場における対応の仕方を脳科学の成果を踏まえて科学的に検討する必要がある」:
子どもたちに見られる様々なこころの問題の背景に、発達障害(広汎性発達障害や注意欠陥/多動性障害など)や児童虐待の問題があることが少なくないことが、最近指摘されるようになってきている。この2つの問題を手がかりとして子ども達のこころの問題の一端に迫ることができると考えられる。例えば、広汎性発達障害について「言葉の表現力が乏しい、対人情報がうまく使えず人間関係が上手く構築できない、衝動性を抑えることが苦手」などの点を早期に発見し、早期に対応できれば、社会的な不適応や反社会的行動等をある程度減少させることができると考えられる。
このため、こうした発達障害及び児童虐待の視点から見た教育現場における対応の仕方を脳科学の成果を踏まえて科学的に検討することも、教育現場における子ども達のこころの問題への対応を考える上で必要なことと思われる。
また、これらについては,親自身が同様の問題を持つ場合が少なくないので、子どものみならず、親子への対応の体制作りが有効であると思われる。

⑪「問題行動が顕在化しやすいのは最近早まっている思春期前期(小学校高学年から中学校)の時期である」:
思春期前期(小学校高学年から中学校)は問題行動が顕在化しやすい時期である。この時期は、社会の中での自分の役割や責任を意識し、自己イメージができてくる変化の大きい時期である。しかし、この時期の情動やこころの発達と脳の成熟の関係については不明であり、今後の研究が必要である。

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(3) 教育を含めた社会全体でのシステム作りについて:
①「子どもの発達に早期から前方視的、縦断的に関わっていく体制作りが必要である」:
症状がはっきりしてから発達早期の状況や家族関係などを探っていくという手法は、医学的診断と治療を考える上で不可欠であり、これまで、主としてそのような手法がとられてきた。一方、可能であれば早期の兆候を捉え (前臨床的診断)、治療的介入を行った方がよいと思われる。前臨床的診断には、上述したコホート研究からの情報が役立つが、同時に近年のゲノム生物学の進歩を応用した診断方法の開発も視野に入れるべきである。
つまり、発達初期から前方視的に子どもの発達を見ていくという治療戦略に変換していくことが重要である。このことにより、こころの障害の早期発見、早期対応、予防という視点に立った体制作りを進めることが重要である。

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本検討会の特徴的な点は、「情動」をテーマとし、「連携」をキーワードとして、子どもの情動やこころの発達等に関して、各学問分野を越えた学際的な連携の在り方や、研究成果と実践現場との連携の在り方等を検討してきたことにある。
我々は、今回の検討会を通じて、子どものこころの発達に関しては、各学問分野で様々な研究がなされており、例えば、科学技術振興機構では「脳科学と教育」プログラムにおいて脳科学を主に乳幼児の教育分野へ如何に導入し応用していくのかについて研究しており、日本学術会議では「子どものこころの特別委員会」を設置して子どものこころのありようについて検討を重ねてきているなど、各機関等で学際的な連携が図られていることを改めて確認した。
その反面、子どもの情動等に関する研究は、これまでも様々な研究成果が蓄積されてきているが、健常児童生徒の研究が少ないこと、研究を進める場合の保護者や学校側の協力の問題があること、研究促進のための費用の問題があること、測定技術をさらに進展させる必要性があること、研究成果の集積が必要なこと、及び学際的な研究活動が必要なことなど、今後の課題が指摘された。

 
「子どものこころの診療に携わる専門の医師の養成に関する検討会」「子どものこころの特別委員会」は
 http://d.hatena.ne.jp/arcturus/20051014
 
澤口俊之さんって読んでないですけど、モーツァルト戸塚ヨットスクールで…
 
 

受容体欠損で異常行動 ストレス環境でマウス実験共同通信 2005.10.25)
 
特定の生理活性物質の受容体が欠けると、ストレス環境では異常行動を起こすことを成宮周京都大教授(薬理学)らがマウスの実験で解明し、米科学アカデミー紀要に25日発表した。
実験マウスの記憶、認識などは正常。異常な行動の様子は人間の「キレる」状態に似ており、原因解明につながる可能性があるという。成宮教授らは、神経伝達など体内でさまざまの役割を果たす生理活性物質「プロスタグランジン」の受容体のうち「EP1」が欠損したマウスをつくり実験した。
高さ約20センチのビーカーの上に置いた実験では、“高所恐怖症”である普通のマウスは飛び降りないが、7匹の欠損マウスは7分間で全部が飛び降りた。正常マウスでもこの受容体をふさぐ薬を与えると、7匹中6匹が飛び降りた。

「キレる」て医学用語でしょか??