50年の節目に

 
水俣病公式確認50年に当たっての内閣総理大臣の談話

水俣病の公式確認から50年という節目の年を迎え、これまでにお亡くなりになった多くの方々に謹んで哀悼の念を捧げるとともに、被害者の方々をはじめ御遺族、御家族など関係者の方々の長きにわたる苦しみに心よりお見舞いを申し上げます。
日本の高度経済成長の中で生じた水俣病問題は、深刻な健康被害をもたらしたばかりでなく、地域住民の皆さまに大きな犠牲を強いてきました。一昨年10月の最高裁判決において国の責任が認められましたが、長期間にわたって適切な対応をなすことができず、水俣病の被害の拡大を防止できなかったことについて、政府としてその責任を痛感し、率直にお詫びを申し上げます。
この50年の節目を機に、平成7年の政治解決及び今般の最高裁判決を踏まえ、このような悲劇を二度と繰り返さないために、水俣病の経験を内外に広く伝え続けるとともに、その教訓をいかし、環境を守り安心して暮らしていける社会を実現すべく、政府を挙げて取り組んでいく決意をここに表明いたします。

 
熊本県議会決議

昭和31年5月1日は、水俣病が公式に確認された日であり、われわれ熊本県民にとっては永遠に忘れることのできない歴史的な日である。
本年は、それから50年という大きな節目を迎えるが、チッソ株式会社水俣工場から排出された多量のメチル水銀禍によって、世界的に悲惨な公害として注目を浴びた水俣病は、被害者の方々の体内に深く潜み、認定申請や裁判を通して、救済を求める声はいつ絶えるともわからない状況にある。
そうした厳しい現実があるにもかかわらず、救済の道は、国のかたくななまでの強硬な姿勢によって閉ざされたままである。
そこでわれわれ熊本県議会は、国の戦後復興、高度経済成長を支えた政策の中で発生・拡大した水俣病の犠牲となり、尊い生命をなくされた方々に対し、心からご冥福をお祈りするとともに、国に対して1日も早い被害者救済と地域の再生振興を引き続き強く求めていく。
さらに、我が国の公害の原点である水俣病の悲劇を貴重な教訓として、公害の再発防止に努め、県民とともに、環境と共生した安全で安心な社会の実現に邁(まい)進することを世界に向けて宣言する。
以上、決議する。

 
自民党水俣病小委員会見解

[1]現状認識
水俣病問題をめぐっては、平成16(04)年10月に水俣病関西訴訟最高裁判決が出されて以降、公健法(公害健康被害補償法)の認定申請を行う人々が急増して約3700人に達し、また、チッソ及び国・熊本県を相手に訴訟が提起され原告が1000人を超えるなど、紛争が再発している。この間、熊本県及び鹿児島県の認定審査会の審査業務がストップするほか、環境省が設置した懇談会において公健法の認定基準を緩和すべきとの議論が蒸し返されるなど、混乱収束の見込みは立っていない。

[2]平成7(95)年の政治解決の意義について
水俣病をめぐる紛争は、平成7年の政治解決でほぼ終息をみた。この政治解決では、医学的にはボーダーライン層に位置づけられ公健法の基準による認定には至らない人々について、チッソによる一時金支払い、国・県による医療費自己負担分等の支給による救済を行うとともに、損なわれた地域社会のきずなの修復を図ることを内容とするものであった。政治解決においては、国・県・市町村が広範な広報活動を行い、申請を促す中で、実に約1万4000人の申請があり、そのうち約1万2000人(保健手帳対象者も含む)が対象となった。
この政治解決は、政治主導の下に、関係者が苦渋の決断をすることにより合意を形成したものであり、その経緯と成果は重く受け止めなければならない。したがって、今回の混乱を収束するに当たっても、この政治解決の考え方に即したものとすることが不可欠である。

[3]認定基準をめぐる議論について
(1)公健法の認定基準は水俣病と判断される者を判別するための医学的基準であり、認定を受けた人々に対しては、昭和48年(73年)の補償協定に基づき1600万円〜1800万円の一時金とその他の継続給付がチッソから支払われている。
最高裁判決以降、この公健法の認定基準と裁判の事実認定が異なることをもって「二重基準」と称して、公健法の認定基準を緩和すべきとの議論がなされている。しかしながら、最高裁判決を含む諸判決は、各原告と公健法認定患者とを明確に区別し、これを前提に補償協定よりも低い金額を認容しているものであり、認定基準緩和の議論はこうした判決をも無視した議論である。また、そもそもこうした議論は医学が一般に認めるところではなく、医学的に不合理ということができ、平成7年の政治解決の考え方にも合致しない。
(2)認定基準の緩和は、医学的にボーダーラインとされる層を「有機水銀の影響あり」と認定することであり、このことは、こうした人々のすべてについて、チッソの排水との因果関係を認めよという主張である。それを前提とすれば、これらの人々が訴訟を提起した場合、裁判所はチッソに対して損害賠償金を支払えとの判決を出すことになるのは必至である。また、公健法の認定を受けた者に対して適用すると明記している上記補償協定の適用を求められることにもつながる。
この場合、チッソが新たに支払いを求められる損害賠償金は、数千億円にものぼると試算され、従来から多額の債務を抱えるチッソの破たんは確実となる。チッソが破たんした場合、現存認定患者に対する医療費や継続給付の支給(すべてチッソ負担)がストップすることになる。さらに、チッソが破たんすれば、水俣地域の再生に向けた様々な取り組みがとん挫することになる。
(3)なお、最高裁判決が国・熊本県の責任を認めたことをもって、チッソの補償金の支払いの原資を国や熊本県が肩代わりすればよいとの安易な議論がなされることも考えられる。しかしながら、最高裁判決が国・熊本県の責任を認めたことにのみ目を奪われるべきではなく、同じ判決で、その責任の範囲を一部に限定していることを想起するべきである。すなわち、国・熊本県は、損害賠償額の4分の1についてのみチッソと連帯して責任を負うとされているのであって、残りの4分の3に関しては何ら法的に責任を負わない。したがって、チッソが破たんした場合、4分の1の部分はともかく、これを超えて国や熊本県が肩代わりするという選択肢はあり得ない。

[4]今後の対策について
このような状況の下で重要なことは、認定基準の緩和ではなく、まず第一に、今回認定申請をしている人々の状況を医学的に的確に判断することであり、第二に、平成7年の政治解決を踏まえて適切な措置を講じるとともに、第三に、チッソが引き続き公健法認定患者の補償を滞りなく行えるようにするなどその責任を果たすことができるようにすることである。具体的には以下のことが必要である。
(1)公健法の認定を求める人々については、県の認定審査会の再開を求めるほか、国に認定審査会を設けることを含め、現行認定基準による審査を速やかに進めること。
(2)ボーダーライン層の人々に対して、保健手帳による医療費救済をきちんと実施すること。
(3)以上のほか、チッソが収益力を上げつつ、患者補償を滞りなく行い、その責任を果たすことができるための環境づくりをすること。当面の課題は、チッソの収益から可能な限り県債の償還、患者への補償給付を、税の支払いに優先して行えるようにすることである。また、次に、チッソが更に収益力を増し、一日も早く約1500億円の債務の履行が可能となり、通常の経済活動を営む中で地域社会に貢献することができるよう、補償金支払いと事業運営とを別会社とすることも検討することが必要である。

[5]環境省の取り組みについて
なお、国では、環境大臣が設置した懇談会において、将来に向けて水俣病の教訓をいかに生かすかという未来志向の議論ではなく、財源と給付の一体的検討なしに認定基準の緩和の議論がなされていると仄聞(そくぶん)する。水俣病対策は、平成7年の政治解決を含むこれまでの経過を重く受け止め、現実的な解決を導くことができる国としての確固たる方針があってこそ進めることができるものである。政府に対しては、そうした方針の樹立が強く求められる。

 
環境省炭谷事務次官

水俣病:あす公式確認50年 認定基準、枠組み見直さず−−炭谷・環境事務次官に聞く
 
−−熊本県や鹿児島県などの認定審査会が開かれず、申請者の審査が滞っている。水俣病の認定現場は半世紀を経てなお混乱している。
◆(国と熊本県の行政責任を認めた04年10月の関西訴訟)最高裁判決が一つの契機だが、新たな訴訟も起こされ、認定申請の審査ができないなど混乱があるのは事実だ。水俣病問題が複雑であるため迅速な解決がなされなかったことは、残念だと思っている。

−−その最高裁判決で行政上の認定基準が事実上、否定されながら、変更しないのはなぜか。
最高裁の判決は、国の認定基準について判断を加えていない。行政責任と損害賠償を認めたのは別の判断基準によるものだ。従って現在の国の認定基準を否定したものではなく、見直しは考えていない。一方で昨年4月に公表した新しい水俣病対策では、幅広く「水俣病の被害者」という概念を設け、認定患者だけでなく、すべての被害者に謝罪した。つらい思いをされた人に応えたつもりだ。

−−補償、救済制度が4通りもあるなど、施策が屋上屋を架している。こうした実態が解決を遅らせているのではないか。
◆関係者が大変多く、意見も分かれている中で、なかなか迅速な解決ができなかった。行政的かつ政治的な判断に基づいて努力をしてきた。制度を白紙に戻せという議論もあるが、これまでの積み重ねは認めなければならない。それを尊重しないと、逆にいろいろな支障が生じる。

−−環境省水俣病問題を一つの契機に発足したが、「被害者と最も向き合わない官庁だ」との厳しい指摘もある。
◆職員は公害そのものをなくそうという気持ちで仕事をしている。被害者と対立して見えるというのは、それだけ水俣病が公害の中で大変深刻で、かつ難しいものだからだ。

 
 

謝罪くみ取れぬ 水俣病首相談話 被害者ら失望感「中身ない」「救済案示せ」
 
水俣病公式確認50年の小泉純一郎首相の談話に対し28日、熊本県水俣市の関係者らは落胆や批判的な感想を語った。50年たっても新たな認定申請や裁判が続いている現状と打開策について、首相が言及していないためだ。それでも談話の「政府としての責任を痛感」「率直におわび」という文言に、被害者救済へ期待をかける声もあった。
新たな認定申請者が熊本地裁に提訴した国家賠償訴訟の第3回口頭弁論がこの日、熊本市の同地裁で開かれた。傍聴に来た原告団の中嶋武光副団長(63)は「早期救済へ首相の決意を期待したが、大変失望している。政府はいまだに、被害者に目を向けていない」とため息交じりに話した。
別の認定申請者でつくる水俣病被害者芦北の会の村上喜治会長(56)は「行政や政府が至らないために今の混乱があるのだから、謝罪は当たり前。感慨はない。ただ、首相が言う被害者の中に未認定の私たちも含まれていると信じたい。これを機に、少しでも早い救済を願う」と前向きに語った。
認定患者らでつくる水俣病互助会事務局の谷洋一さん(57)は「通り一遍のあいさつ文に意味はない。認定問題や胎児性患者支援のシステムづくりなど未解決問題をどうするかが1番の課題なのに、深刻さが全く伝わってこない。企業に加担し続けた行政や政府が、今も被害者に向き合っていないことを明白にする談話だ」と厳しく批判した。
水俣市の宮本勝彬市長は「首相談話が出たことは関係者のご努力の結果であり、ありがたい」と評価しつつも「被害者救済につながる具体的内容がほしかった。物足りない。今後の取り組みに期待したい」と注文した。
■「地元に励み」潮谷知事は評価
熊本県潮谷義子知事は28日の定例記者会見で首相談話に触れ「地元が要望していた首相の慰霊式出席はかなわなかったが、今回の談話で、政府として謝罪され、悲劇を2度と繰り返さないと誓った意義は大きい。地元にとって大きな励みになる。水俣病が1地域の問題ではなく、国全体の問題だという意識を共有できたと思う。公害の再発防止はもちろん、被害者の早期救済に、国としての主体的な取り組みを期待したい」と語った。